silverlining さん
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2019年12月27日 to シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢
なんでこんなに上映館数が少ないんだって思うくらい良い映画でした
演出も演者たちの演技も素晴らしい
過度さはなく、たんたんと日々の生活や人情の機微を表現する
娘のために33年かけて宮殿を建てると言う謳い文句だが
実際は、今で言う重度の発達障害、コミュニケーション能力が極端に低く、感情が欠落し、周りから変人と疎まれる主人公が一部の人たちの理解と愛で成長していく姿を描く
障害を持つ者が、とある分野で特出した才能を発揮することがあるが主人公はその典型
愛が溢れる幸せとその喪失を乗り越え
美しく厳しい自然の中、毎日毎日地面の石と語り合い積み上げ、セメントをこね塗り続ける主人公
それは本来の人間が生きる姿の体現ではなかろうか?
だからこそ、あの宮殿は他の贅沢に造られた世界中の名だたる建造物以上に人の心を打つのではないだろうか?
2019年12月30日 to この世界の(さらにいくつもの)片隅に
遠い親戚に会って思い出話で薄れ忘れていた当時をより鮮明に思い出す感覚
「それでも生きていく」
「さらにいくつもの」は戦争映画ではなくなった
前作でもそうだったが太平洋戦争という悲惨な時代に生きているだけで、彼女たちは私たちと何一つ違わない
前作では戦争が迫ってくる緊迫感のようなものも感じたが
今作では戦争が自然に日常に滑らかに入り込んでくるようだった
おそらくこれは直接の戦争描写以外のシーンの描写が増え、当時の生活感がより感じられるようになっただけではない
それは終戦後の台風のシーンの追加で
当時の人々にとっては人為的な空襲も自然災害である台風も同様にどうしようもないことである様を描いたことからも分かる
(もちろん空襲を生き延びた人達には台風は何てことない)
片渕監督は「この世界の片隅に」を戦争映画にしたくなかったのではないだろうか?
だから「さらにいくつもの」を新たに創ったのではないだろうか?
戦争ではなく人間を描きたかった
そんな気がさせられる
戦争は間違いなく悲劇ではある
人は時代によって営みを変えていくが根本的には良くも悪くも何も変わらない
戦争は多くのモノを奪っていくが戦争でなくとも、生きていれば色々な幸不幸が訪れる
「それでも生きていく」のが人間だ
悲惨な時代を生きる彼女たちの姿は
より恵まれた現代の私たちに勇気や力を与えてくれる応援歌だ
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2020年7月3日 to 在りし日の歌
中国のとある夫婦の物語
1980年代90年代が平行して描かれ最後2010年代に収束していくが時間のシフトが若干分かりづらく混乱する人がいるだろう
精一杯生きる中、さまざまな不幸が訪れる
不慮の事故、国家や社会情勢に翻弄されながらも
ユーモアが織り込まれ重くなりすぎないように、かつ丁寧に描かれている
多くのものを失い、悲しみに飲み込まれ傷だらけになりながら、お互いを思いやり寄り添い生きていく夫婦
ちょっとハッピーエンド過ぎるきらいもあるが
長い時間を共に過ごした夫婦がたどり着いた
「不幸を二人で乗り越えたことが幸せ」という境地に観客の心も救われる
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2019年11月14日 to 今さら言えない小さな秘密
「一見スキだらけの老人が実は武術の達人でスキが全くない」みたいな、そんな作品(例えであって格闘シーンはありません)
脚本が良く計算されていて、期待させておいて、それを裏切ったりなど、笑いを無理に取りに来ない引き算が秀逸でシュール
フランスの漫画が原作で原作者も脚本に参加していることから絵コンテ的なものがあったんではなかろうか?
登場人物たちそれぞれのキャラクターカラーはもちろんたが、村の建物や木々などの色、雨のシーンとの色の対比、色使いが素晴らしい
わざとリアルなCGを使わずに特撮的な技法を多用したり、派手なカメラワークではないが、カット割や役者の表情の写し方など、こだわった作り
どの役者の演技も素晴らしいが
1番惹き付けられたのは、少年時代の主人公ラウルの自転車での転び方だ
あれはなかなかできない
単に受け身を取らないだけでなく、転ぶ直前一瞬スローモーションになる
あの転び方は本当に絶妙
あれを観るだけでも価値がある
2020年3月17日 to エキストロ
これぞ日本を代表するコメディ映画と言われるようになるかもってくらい面白い
いや、コメディ映画と言うよりは壮大なコントだ
最初の10分は、あまりにつまらなくてハズレたか?と思ってしまった。
とある一人のエキストラを取材する前半部分は並以下の映画だが
話が進むにつれ、これでもか!というくらいに、ふざけ方がエスカレートしてハチャメチャになっていく
いやいや、予想の斜め上を行って上手くまとめるのは傑作だが
この作品はストーリーが異次元に到達する
演者の使い方が素晴らしい
もしかしたら当て書きの脚本かもしれない
そして、散りばめられた前フリを見事にオトしていく雪崩式のお笑いは大傑作
2020年1月17日 to パラサイト 半地下の家族
筆舌しがたい傑作
ポン・ジュノ作品は特別好きではなかったが今作品は好き嫌いを越えている
様々な伏線、前半のリズミカルな展開、後半まさに大雨により高台から半地下に流れ込む激流のように物語は全てがひっくり返り、そして衝撃のクライマックスを迎える
2回観たが全く隙がない
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2020年3月1日 to 37セカンズ
あー早くも2020年のNo.1出ちゃった
素晴らしいの一言
何故に人は愛をこじらせてしまうのか
障害があろうがなかろうが人は皆弱く、自由を望みながらも何かに自分を犠牲にし、人を想うことで幸せを見失う
自分と異なる者や知らない者に恐怖を抱くのは、人が生き残るために獲得した本能ではあるが、この世に同じ人間などいない
持つ者と持たざる者がいたとして、持つ者が全てを手にしてる訳ではなく、持つ者が手に入れられない物を持たざる者が持っていたりする
この物語の登場人物たちはチョイ役ですらバックボーンが垣間見える
何らかの欠落を持ち、それを受け入れた人々は主人公ユマを受け入れることに垣根がない
それは持たざる者が持つ何かなのかもしれない
逆に登場人物でバックボーンが見えないのがユマと共に旅をする介護士の俊哉である、出番の多さの割にポイントとなるセリフが皆無
ちょっと良さげなセリフを言わせようと思えばチャンスは山ほどあるのだが、それがない
それは介護士として獲得したものなのか、描かれてはいないが彼の欠落なのかも
変に感情を描けば焦点がボヤけるための演出なのかもしれない
籠の中の翼のない鳥にも大空を飛ぶ本能がある、籠を飛び出した鳥の勇気は出会いを引き寄せ運命を切り開く
しかし、翼がなければ1人では空は飛べない
そこでユマを助けるのか舞と俊哉だ
2人がユマを助けるのは同情ではなく共感、そしてユマの勇気に対する称賛か
籠である母親も多くのモノを失い傷ついている
籠の存在価値とは鳥が中にいるからであって、空っぽの籠には存在価値がない
籠が鳥を失う恐怖とは如何なる物か
しかし、翼のない鳥の羽ばたきは籠すらも自由にすることとなる
主人公を演じる佳山明の全てをさらけ出しすような体当たりの演技が素晴らしい
彼女の表情を観るだけでもこの作品には価値がある
2019年12月25日 to 羅小黒戦記
中国アニメーション
始まって間もなく手塚治虫作品宮崎駿作品を彷彿おさせる演出(主にジャングル大帝レオ、もののけ姫)
アクションシーンはNARUTO -ナルト-かアキラかとも思える所もあるが
それ以上のスマートさとスピード感
非常に良くできていて面白い
もちろん日本のアニメ、マンガに多大な影響を受けていて、何かのパクりだと言えばきりがないが
日本のオリジナルアニメの多くはアニメ好き(アニオタ)向けが多い中、この作品は老若男女国柄問わず万人にうける丁寧な作り
そして魅力溢れる世界観とキャラクターたち、主役張れるようなサブキャラ多数でスピンオフも沢山作れそう
元は24話のアニメシリーズの再編集版のようでエンドロール観るとカットされたエピソードも観てみたくなる
NHKとかで放送権取ってくれないだらうか?
2019年11月16日 to ジョーカー
全く新たなジョーカー像。既存のゴッサムシティではなく、パラレルワールドのジョーカーと考えた方が良いだろう
(この作品に限らずアメコミは様々な派生をするので、それぞれ別の作品として見る方が良い)
最近のジョーカーは事故による特異体質ではなくなっていて外観のアイデンティティの消失(非人間化)と言うトリガーがないために内面つまり精神的な崩壊を描くのだが不運や社会の不公平という積み重ねられていく不幸により徐々に崩壊しジョーカーになるのではなく
信じていたアイデンティティが全て虚構であって自らの実在が何もないことに絶望し、社会に認知される、つまり存在するためにジョーカーになる(アーサーという存在が単に消失していくのではなく、アーサーという存在自体が無かった)というトリガーは良い着想
既存の理解不能な完全な狂人であるジョーカーとは違い
「笑い」「怒り」が彼が抱える大きな「悲しみ」から自己を守るための鎧として発生しており、とても人間的に描かれている
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2020年9月20日 to TENET テネット
クリストファー・ノーランらしいアクションと重低音のBGM、分かりやすい伏線
序盤で時間の逆行について主人公が「考えても分からないから考えるな」と言われるが、これは監督が観客に向けて言っている言葉だ
時間の逆行が単に「巻き戻し」によるやり直しではなく、「時間の順行と逆行が同時に存在する」と言う今までにない飛躍した基本設定
(逆行させてやり直せるはずだが、誰もそうしない)
「祖父殺しのパラドクス」はクリアしているが
終盤は矛盾だらけ、いつの間にか逆行ではなく、過去への跳躍が行われるようになったり、時間逆行装置が大量にあったり、未来から情報、支援を得ている割にはマヌケな敵役(元々クリストファー・ノーラン作品の敵役は怖くないが)など
気にすると駄作に思えてくる。
ファンタジックな作品こそリアリティが必要だと思うが
いつもクリストファー・ノーランは登場人物の動機や細かい設定などは本当にサラッと触れるだけでお構いなしに力業で観客をねじ伏せてくる。
ある意味いさぎよい。
つまり監督は「矛盾だらけ」なのを承知して映像勝負で作っているのだ。
だから「考えても意味がない」作品だと言うこと
確認のためにもう一度見た方が良いかとも思ったが止めた。多分意味がない。
この作品は考えることをせずに怒涛の展開に身を任せることで楽しむ作品なのだ
ただ、最初は矛盾を最小限にして徐々に矛盾をエスカレーションさせて行くことで観客が矛盾を受け入れやすくする展開は流石。