FOXHEADS さん
50代前半
男性
誕生日 : 8月7日
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2018年5月17日 to ザ・スクエア 思いやりの聖域
スウェーデンの奇才リューベン・オストルンド監督作。前作「フレンチアルプスで起きたこと」同様、些細な過ちのはずだった行動が主人公を追い詰めていくが、今作では悪い方へ悪い方への突き進み方が徹底してすぎており、更にアイロニーとブラックなユーモアとたっぷりの毒の盛り度がやりすぎな位にスゴイ。アートの世界で成功を収めたキュレーターである主人公が、自身の”思いやり”の無い行動を重ねていった結果、これでもかと降りかかる不幸の連鎖。そのすべての元凶は彼にあり、上手く取り繕おうとしてもダメ、反省して償おうとしたって、謝罪したって、辞めたって許されない。裕福な知人や仕事仲間、部下、友人、娘たち金乞いの人たちまで、もしかして...と助けてくれそうな人々が、ことごとく助けにならずにむしろ足を引っ張りまくる。徹底して冷淡で悪ふざけに近いブラックな笑いを執拗に盛り込むあたり、監督はかなり偏執狂的にクドイ性格だなあ...そこが好き!やはり際立つのは悪意のある冷笑の嵐だが、その中に、現代の人間関係の希薄さやネット社会の脆さに対する警鐘を鳴らす。カンヌ映画祭でパルムドールを受賞したが、拍手と共に「恥を知れ!」との怒号も鳴り響いたというが、なるほど確かにけしからん話ではあるなー、と納得してしまう。個人的にはかなり好きだけどねー、大傑作!
はっきり掴めなかったのは、”カオスが訪れる”の件と、アパート住民の先住民族風の男性のところ。この二つって、組みになっていると思っていいんでしょうか?
2018年3月7日 to 聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア
ヨルゴス・ランティモス監督は、いつもヘンテコな人たちをヘンテコなシチュエーションに置いて、異常な行動に導きますが、今作ではあまりヘンテコでは無い。父親の一つの過ちから、家族がとんでもない事に巻き込まれてしまう。父親以外、あまり悪い事やった人はいないんですが、その事実と向かうべき悲劇的な結果が明らかになった時の個々の行動が色々ヒドい。それが家族であろうとも。人間の心理と行動は、既にブラックな笑いに転化。そういや、「籠の中の乙女」も「ロブスター」もコメディだよね。前の諸作のザワザワヒリヒリする様な展開は多くは無いが、人間の心理の追求をフツーの方向にしない所がこの監督の真骨頂。サスペンスフルな映像と音楽は素晴らしくスタイリッシュで完全に一皮むけました。全く飽きずに鑑賞出来る大傑作!ギリシア人監督らしい元ネタ...というかモチーフになったお話が、ズバリ劇中に出てきます。ヨルゴス・ランティモス作品の中でも非常に親切で分かり易い作品だが、人間という存在のイタさの描き方は最上級クラスです。アリシア・シルバーストーンが出てますが、何かの暗喩ですかな?アカデミー外国語映画賞を取ってもらいたかった!
2018年6月18日 to レディ・バード
グレタ・ガーウィグと言えば、「マギーズ・プラン」「トッド・ソロンズの子犬物語」「ジャッキー」「20センチュリー・ウーマン」などなどなど、目下売れっ子真っ最中な女優さん...ではあるけれど、「フランシス・ハ」で、イタくて失敗の連続を繰り返しながらも真っ直ぐ(かなり曲がってはいるけど...)に生きる女性を演じて共同で脚本も書いていた頃が良かったなあ...と本人も思っていたのかは知らないが、自身が裏方に徹した初監督作品である今作は、「フランシス・ハ」に匹敵する魅力に満ちていた!高校最後の日々を描いた青春映画ではあるが、ロマンチックばかりでも、トンチキ騒ぎばかりでも、増してや友情と涙ばかりでもないが、そのすべてを等身大に、受け止める”ダメなアタシ”に好感が持てる。背伸びして失敗、恋がしたい!で失敗、親に逆らって...失敗。そんな、青春なんて良い事とか悪い事ばっかじゃない、しかもはっきり言ってパッとしない。そんなフツーの高校生の日々が何とも愛おしく思えてしまう。「ラブリーボーン」のスージーと言えば分かりやすいシアーシャ・ローナンが演じる主人公”レディバード”に、男女関係なく共感を覚えてしまうから不思議。シアーシャはもちろん、ルーカス・ヘッジズ、ティモシー・シャラメという目下売出し中の男の子を、しれっとさらっと自然体に使ってしまうのも良いなあ。ガーウィグ監督がマンブルコア出身だって事をネガティヴに捉える向きもあったようだが、この自然体で等身大の青春の日常は、マンブルコアの精神そのもの。ガーウィグの出身地のシンシナティを舞台に選んでいるのも、何かイイなあ。大傑作!
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2018年7月9日 to ファントム・スレッド
監督作品群は傑作揃いだが、取っ付きづらさと理解しづらさが障害になり、一部の熱狂的な支持を受けるものの、世間一般からは”怪作監督”と呼ばれてしまうのがしゃくだが、何はともあれ、PTAこと我らがポール・トーマス・アンダーソンの最新作。盟友ダニエル・ディ・ルイス最後と言われる出演作でもあります。1950年代イギリスのオートクチュール・デザイナーとして華々しく成功を収めた偏屈なデザイナーと、彼がミューズに選んだ元ウェイトレスの女性との心の葛藤と駆け引き、禁断、倒錯、若しくは究極の愛の姿を描く。鑑賞する側の心持ちや性別(こっちが顕著かな)でかなり見方が変わる作品なれど、これを受入れられるかどうかが、映画本編同様に試される作品ではある。すんなり受け入れられる人は少ないかも知れないし、ストーリーが”愛”か”変態”か”ホラー”か、受け取り手の捉え方、下手すれば体調(笑)で変わる作品なれど、PTAの作品として完全にウエルカム。完璧にノックアウトされました。毒のあるストーリーとは裏腹に、英国上流階級の豪華絢爛な衣装やインテリアなどの世界を、どこかもやっとした映像で描く様が美しい。「ザ・マスター」を超えるノスタルジアによって異世界への誘いを拒絶しなければ、至福の時間を過ごせます。こちらも盟友と言えるジョニー・グリーンウッドが手掛けた流麗でゴージャスな音楽も素晴らしい。ジョニーは、直近の「ビューティフル・ディ」で聴かせた鋭角でヒリヒリする様なサウンドから一転、恐るべき振幅のある才能を発揮して豪華絢爛な音世界を作り出した。既に名匠の域に到達している。凄い。誰かが『召使』になぞらえていたけれど、そうは思いませんでしたねー、違いは”愛”の存在でしょうか。
2018年2月7日 to スリー・ビルボード
実はこの監督の作品は初見だが、非常に良かった。単純な社会問題提起⇒仲間が増え⇒解決!って思っていたオハナシとは180°異なる、予測不能の脚本が巧み。こうなるだろうな〜と思っていたこちらの予想を何度裏切られた事か!アカデミー賞に主要3人がノミネートされているのも頷ける、極端ながら深みのある演技も素晴らしい。何だかスカッとしないところも、余韻を楽しめて良い。多数織り込まれた細かいネタや暗喩探しも含めて、何度も観たくなる作品です。ケイレブが異常じゃない役をやっていて、しかもいい役!彼にもに注目して欲しいです。オレジュ!
2018年4月24日 to ラブレス
ロシアのアンドレイ・ズビャギンツェフ監督の作品は、「父、帰る」をはじめ、愛なき人々の行動を冷ややかに描いた作品が多いが、今作はその冷徹な視線が頂点に達したと言っていい冷ややかっぷり。息子が行方不明になったというのに、離婚協議中の夫婦の他人任せの行動、捜索に関わる警察、お互いの愛人、ボランティア団体、全ての大人たちが淡々としていて愛が感じられない。あまりにも不毛な人びとを、冷ややかな映像で淡々と描くから、こちらの心も冷えてしまう。鑑賞する人を選ぶ作品ではあるが、この徹底ぶりはやはり凄い。タイトルに偽りなし、無関心な愛なき世界を、冷え切った夫婦を通して描く。ウクライナ侵攻を挟み、ロシア社会への警鐘とも捉えられる。ラストの夫婦のお互いの行動と、行方不明になった息子の存在した証明が虚ろに揺れるシーンがあまりにも虚しい。掛け値なしの傑作。
2018年2月20日 to グレイテスト・ショーマン
実在した伝説の興行師、P.T.バーナムが仕掛けた「偉大なるショー」の映画化作品。豪華なセットやド派手なパフォーマンス、見事な歌唱と構成力で、全く飽きることなく鑑賞できました。やはりヒュー・ジャックマンの魅力が炸裂!躍動感のある演技と踊り、迫力のある歌唱など、見事に才能を発揮していました。個性的なキャラクター達のパフォーマンスも素晴らしかった。ヒューと最後に交代したザックは比較されてるようで可哀そうでしたが、しっかりと好感の持てる演技でした。個人的にはミュージカルって苦手で、「ララランド」も好きじゃなかったんですが、今作は素晴らしかったです。
アメリカの批評家たちは、今作に好意的な意見が少ないみたいですね。P.T.バーナムの史実と違うとか、人物描写が薄いとか...そんな否定的な意見を吹き飛ばす様な観客動員と興業収入、そしてサウンドトラックのヒットが、観客の素直な感動を感じさせて、痛快でした。批評といい、アカデミー賞にも楽曲しかノミネートされていない事実といい、ちょっと違和感がありますね。
宣伝文句の「ララランド」のスタッフが...っていうのは無用。個人的には、こちらの方が断然楽しめました。ただ、「ララランド」の音楽制作チームが手掛けたオリジナル音楽は非常に良かったですね。時代背景を踏まえたオールド・タイマーなものではなく、現代的な曲やアレンジが見事な抑揚を生み出していました。それってある意味、定石破りなのかも知れないが、非常に良かった。サントラ、すぐに聴きたくなったもの。
今年度最高に楽しめるエンターテイメント作品です。
2018年4月5日 to ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男
第二次世界大戦の最中という激動の時代に英国首相に任命された、ウィンストン・チャーチルの心の葛藤、対立、決意と歴史的な行動を描く。何で顔を変えてまでもゲイリー・オールドマンが演じたの?って思っていましたが、鑑賞してガラリを考えが変わりました。アカデミー主演男優賞受賞も納得の素晴らしい演技!映画の中で、保健省バルコニーからの群衆に向かっての感動的な演説が無かったのが残念かなー。イギリスの歴史史上、”最も暗い時間”が本題なので、ストーリー的にそこまでを描いていないので仕方が無いけども。原題「DARKEST HOUR」が示すように、映画はこの時代にチャーチルが成し遂げた大きな決断が主題であるので、チャーチルの(色々と問題はあった人物の様だが)、政治家人生すべてを描いた作品では無いので、世界史でも指折りの支持率を誇るチャーチルの偉大さは、この映画だけでは理解できない。だから、勘違いを誘うこの邦題には賛成できないが、この映画をきっかけに、映画「ダンケルク」や、チャーチルの評伝や著作で、彼がいかに偉大な指導者であったかを知る入り口になればより良いと思う。
2018年3月13日 to イカロス
ちょっと最近自転車レースの調子が悪いからドーピングしてみよっかな〜といった危ないリアリティ番組的なもの(実際前半はそれっぽい)かと思っていたんですが、お話が進むにつれ、トンデモない社会派作品へと変貌します。ロシアのスポーツ界の実情、ドーピング隠しの驚きの巧妙な手口と実態、そして国家ぐるみの陰謀渦巻く展開には驚愕するしか...当事者の命の危険を、見ているこちらまで感じてしまう程のリアリティとスリリングな展開に身震いしました。しかもオリンピックの開催時期というタイムリーさ。製作者は最初の意図とは違ったのかもしれませんが、ドキュメンタリーの持つ”伝えるパワー”が半端ない作品でした。アカデミー賞を受賞するのも頷ける社会派ドキュメンタリーの傑作!
2018年6月18日 to ビューティフル・デイ
リン・ラムジーと言えば、「モーヴァン」「少年は残酷な弓を射る」など、救われない心を救済するかと思わせて突き放す作風が散見されるが、そういった浮遊する心への監督の鋭い眼光がピークに達したと言えるの今作だと思う。淡々としていながら、過激で残酷で、でも魂の救済を渇望する人々を見つめる視線には、微かな優しさも感じられる。少年期のトラウマを引きずりながら、満たされない現在を殺伐と生きているだけの男。人助けの様だが、実際には人殺しという家業に身を投じている彼は、大人にはツラく当たるが、少年少女にはどこか優しい。そんな彼が、大人の勝手な欲と汚さにより、あまりにも過酷な境遇に晒された少女と出会い、何かを共有する事によって、彼の精神は満たされたのだろうか...そのものズバリな邦題(原題は全然違う)に希望を見出したい。PTA作品の常連、すっかり映画音楽作家として成熟したジョニー・グリーンウッドの耳障りなまでに鋭角な音楽は、心に突き刺さるようで痛くて素晴らしい。ホアキン然り、ダイアン・クルーガー然り、昨年のカンヌの審査陣はちゃんとしてたんだなあ、と納得。