J P さん
男性
カウンタ : 9944
ただいまの掲載件数は タイトル68292件 口コミ 1212538件 劇場 602件
※ユーザー登録すると、レビューを評価できるようになります。
141件中1-10件
2016年12月5日 to ボーダーライン
同時期に公開された「ズートピア」と設定が似ており、あちらはかわいいウサギの警察官のジュディが奮闘して自己実現を図る作品だが、こちらはFBI捜査官のケイトがひたすらに利用され、傷つき、絶望させられ、そして誰も彼女に救いの手を差し伸べることはない。
ズートピアは一見すると分不相応であることも向こう見ずに奮闘することで仲間の心を動かして理解を得られる・・・といったテーマがあったが、こちらにそれはない。なぜならこちらの世界は本物のこの世の地獄だからだ。理想だけでは地獄で生きていくことはできない。
平和というものは幻想であり一定の秩序が保たれた状態が目指すべき現実であるということが理解できない者は排除される。地獄の深淵に落ちる前に地獄の門で引き返すこととなったケイトはある意味で幸せであったということか。
共感:1人
2016年12月6日 to ヘイトフル・エイト
殺すほうもクズなら殺されるほうもクズ、揃いも揃ってクズばかり、良心なんかどこにもない。だからこそのこのパワー。これぞ映画だ!と声を大にして言えるだろう。
殴られようが、熱々のシチューをぶっかけられようが、顔面に血反吐や脳漿をぶっかけられようが、金玉を吹っ飛ばされようが、相手の息の根を止めることだけはあきらめない。自責や悔恨などクソくらえでそんな暇があったら目の前の相手に鉛玉をブチ込んだほうがいい、そんな人達が殺しあうだけの映画。まさに野蛮としか言いようがないが、この野蛮さしかないというところが逆に3時間弱の長丁場を牽引するパワーの源となっている。他の要素が混入すればそれは蛇足であって、結果として駄作となる。
本作は野蛮こそが娯楽であり、芸術の一つの側面であり、人間の本質であるということを教えてくれながらも、所詮B級と斬って捨てることのできない水準に達している作品である。
2016年6月5日 to レヴェナント:蘇えりし者
人と人が殺し合い、人と動物が殺し合い、動物と動物も殺しあう2時間半。殺戮シーンを容赦なく丹念に魅せてくれるが、そこにはさほど嫌悪感がない。
グラスがサバイバルする過程で様々な動物の命を奪うが、そこに畏敬の念があるからだ。
宗教的な救いが必要だったのかはよく分からないし、個人的にはあまり好きな展開ではない。
だが、グラスの大自然を相手取っての不撓不屈のサバイバルは文句なしに目を奪われる。この映画の見所はと聞かれればこの点が第一だろう。
しかしながら終始殺伐としたストーリーとは関係無しにこのような映画を観るといつも人間はあらゆる意味において最低限の生活の方が穏やかかつ生き生きと生きることができるのだと感じてしまう。
結果的に印象に残っているシーンと言えば、ディカプリオが火をおこしたり、囲いを作って魚を掴まえたりするところだったりするのだ。
これは髭に垂れたヨダレや鼻水が凍って氷柱になっている顔こそ、あるべき男の顔なんだと教えてくれる稀有な作品である。
2016年6月15日 to ズートピア
屈強な動物達のみにしか務まらない警察の世界でかよわいウサギが胡散臭い相棒と共に孤軍奮闘する話。
主人公があきらめずに目標に向かって邁進する姿が描かれるが、単純に「夢はあきらめなければいつかは叶う」タイプの映画ではない。仲間達から疎外された主人公は警官にもかかわらず詐欺師やマフィアと組んで事件解決にあたる。正攻法で戦う適性がないなら邪道でも一向に構わないというわけだ。このへんはなかなか面白い。短所を克服しようとはせずに自分の今できることで勝負するというわけだ。
なにより脇役達のよく発する台詞で「理想に向かわず、無理をせず、普通やありのままが一番」というネガティブな「アナ雪」ディスをしてくるあたりにこの映画のテーマが垣間見える。
悪の黒幕の正体にもどんでん返しが用意されており、大人には少し物足りないだろうが子供は驚くだろう。逆に言えば幼児には少し分かりづらく、小学生高学年程度が適正の年齢かもしれない。
CGも美しくアクションも凝っている。
これらは子供はもちろん大人も十分楽しめる。
吹替版では主人公の声を上戸彩が務めているが、全く違和感なく技術的にも素晴らしいと思う。
押し付けがましい子供向け映画が多いなかで、この作品は是非親子で見に行くべき一作であると言えると思う。
2016年8月21日 to 悪党に粛清を
【一番好きなシーン】
兄のピーターが殺されてうつぶせで馬に引きずられるシーン。
顔が地面に容赦なくぶつかって崩れていくのをアップで見せるところにこの映画の本気度を感じる。
ジョンに唯一味方した町の若者が無残に死んでいくのもせつない。
これでマデリンが強姦されてボロボロになるシーンがあればラストのカタルシスはMAXだったが、女性への暴力描写に関してのみ何故かおとなしい。
演出・演技面共にとにかくシブく、まさに通好みのノワールである。
2016年7月31日 to イット・フォローズ
この作品をあまり映画を観ない人に簡潔に紹介するなら、ずばり「ターミネーター映画」であろう。
全編にわたり追いかけっこである。
だがその単純さが映画の本質なのではないかと強く感じさせられる作品だ。
気に入らない点はある。
それは魅せるべき追いかけっこをつぶさに描写せず変なところをカットしてしまうところだ。
老婆に追われて逃げ出したと思ったら、次のカットで車を運転している。ここはその間の出来事はカットすべきではないと思う。
又、ビーチから車で逃げる時もすぐに事故ってしまうのだが、次のカットで病室にいる。大した距離を進んでないのに気絶した際に「それ」に追いつかれはしなかったのか。そういった詰めの甘さは非常に惜しいと思う。
評価の高い音楽も品のない盛り上げ方をしていて、効果的ではあるが、個人的にはあまり好きにはなれない。
逆に多くの批判的な指摘を受けているクライマックスのプールでの戦闘に関しては、自分は好感が持てる。つまりは「主人公達はいったい何をしたかったのか?」という指摘だが、結局のところ主人公達より「それ」の方が頭が良かったというだけなのだ。
「それ」の機転の良さに主人公達がテンパりすぎたというだけなのだ…と思う。
特に主人公に想いを寄せる男の情けなさは腹立つほど。
主人公含む女達のほうがまだ冷静である。
最後の銃撃も主人公まで撃ち殺すつもりなのかとつっこまざるを得ない(笑)。
客観的に見ると、やっぱりこういう時はチャラ男でも頼りになる男のほうがいいんだなと思ってしまう(すぐに死んだけど)。
後半、主人公が躊躇なく赤の他人に移していく展開も良い。特に「それ」がすぐ主人公に戻ってきたのを見て「あぁ、あいつら時間稼ぎにもならねえな・・・」的な表情で呆然とする主人公が面白い。
とまぁ、悪い点もあれば良い点もたくさんあって書ききれないのだが。
結局「それ」の正体は何なのか。
どこかのレビューで「大人になることをどこかで怖がっている少年少女達の恐怖心の象徴である」といった感じで書かれていて、そういった見方をするとなるほど、違う味わいがあるなと思ったりもするのだが、しかしこの手の映画でいつも思うのは「得体の知れないものはそのままのほうが怖い」ということだ。怖いから正体を把握しようとする。
この作り手たちはそれをよく分かっている。
この作品は観る人は自分だったらどうしようかと考えてしまうだろう馬鹿馬鹿しくも楽しい映画である。男が主人公に「女なら移しやすいだろ」とある意味差別的な発言をするが、女がおばちゃんになっちゃったらどうするだんだろう、とか思う。
まぁこの状況が続いたらいずれは死んだほうがマシってことになってしまうのだろうが・・・。
いやいっそ鋼鉄の棺桶にぶち込んで地下深く埋めるってのはどうか。
・・・妄想は尽きない。
2017年3月6日 to コミック雑誌なんかいらない!
ジェイク・ジレンホールの『ナイトクローラー』を30年先取りした映画・・・と言えるかもしれない。
『ナイトクローラー』が狂気のまま突っ走るのに対してこちらは最後に主人公の立場や考え方が決定的に変わってしまう点が異なっている。そしてその反面、『ナイトクローラー』は主人公のみが狂人であるが、こちらは主人公をとりまく世界そのものが狂気に満ちている。つまり狂気の捉え方、扱い方が根本的に違う。その点において『ナイト〜』はサイコスリラーであり、こちらはホラーである。
ストーリーに分かりやすい起承転結を作らずに様々な事件を突き放した演出で追っていく。このテの作りは先が読めないという点においては吸引力は強い。後半に進むにしたがって狂気の度合いも増していくのだからなおさらだ。
このようなエッジな作品がリアルタイムで観ることが出来た80年代は映像技術が進歩した現在よりも幸せな年代であるような気がしてならない。
2016年4月30日 to ナイトクローラー
結果主義の世界において倫理や道徳などは建前であり求められる本質ではない。そのことに気づいたルイスは素直にそれを行動に移した優等生だ。この世界においては彼は狂人ではないのだ。だから罰せられることもない。
ジェームズニュートンハワードの音楽が清々しく流れる時、主人公はゲスいことをしている。クズな主人公を感動的な音楽で彩っている。実直な問題提起をせずにこの狂った世界に観客を誘う作りとなっている。
同業者であり先輩でもあるジョーの勧誘をルイスはあっさり断る。本来であれば安定した道を選ぶ方が賢いはずだがルイスは知っていたのだ。「この世界においてはどんな優良企業に入るよりも自分が人を雇う側に回らなければ勝利はない」ということを。使われる側から使う側にならなければならないということを。
ジェイク・ギレンホールの入魂の演技の素晴らしさは言わずもがなだが、異常なまでの行動力の高さと一切悩まず囚われずのルイスというキャラクター造形には悪魔的な魅力がある。盗んだ腕時計を誇示するようにいつまでも身に付けている彼は結局のところ何も人間的な成長は遂げていないのだ。にもかかわらず社会的・経済的な成功を収めることができてしまうこの社会にこそ問題の本質がある。
そのことを教えてくれるルイスはある意味でダークヒーローだ。
共感:1人
2017年3月18日 to ヴィジット
制作費500万ドルにて全世界興行収入が8740万ドル。
低予算でもアイデア次第ではどうにでもなることを証明した佳作。
今回はPOV方式とあって(全編を通しての完全なPOVではないが)、従来のシャマラン映画にあったような荘厳な演出はないので毛色はかなり異なる。なので訴えかけてくるものも少なく、観たまんま驚くだけのホラー作品となっている。
その反面リアリティ度は高く、また驚かせるためのシャマランの演出は冴え渡っている。このあたりのシャマランのセンスは他に比肩するものがないと言えるほどのレベルだ。安易に血を見せることなく観客を怖がらせたことは素晴らしく、ホラーとは本来こうあるべきだと思わせられる。
ラスト付近のどんでん返しによって更に恐怖は増すが、それによってジャンル的にはモンスター映画に近づいていく。あのどんでん返しがなければ子供の視点から見た認知症の恐怖にプラスしてそれに伴う家族の苦悩といった、もう一段階上の映画になったと思うが、シャマランはあくまで観客を即時的に驚かせることに重点を置いたようだ。シャマランが好んでそのような選択をしたのならよいのだが、「シックスセンス」の呪縛に縛られて大人の事情でそうせざるを得なかったとしたならば残念な話である。
話は変わって、本作はアメリカでは低予算だが、5億円近い制作費がかかっているわけで日本では大作扱いとなる。本作のように金がかかっていないように見えてもこのクオリティを保つにはそれだけの金が必要なわけで、そう考えると邦画の製作環境はあらゆる意味で本当にキツい状況に置かれているのだなと思ってしまう。
共感:1人
2017年6月24日 to ケープ・フィアー
オープニングのデ・ニーロの筋肉とタトゥーのシーンだけでワクワクさせられる。汗臭さが漂ってくるような画を見せられるだけで、これが映画の魅力だよな、と思ってしまう。
デ・ニーロが歩いているシーンでカメラに顔をぶつけるくらい近づいてくるショットも遊び心がある。
狂人とは悪い意味でも思想に一本筋が通っており、それはブレがないということだ。ストーリーテリングにおいて、キャラクターの思想や価値観が固定化されているというのは非常に強いエネルギーを持っていると思う。偽善的な倫理観などは本作のマックス・ケイディなどは最も嫌うところであり、それは人間の本質に対する問いでもある。