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闇の中の宣誓書
2008/12/30 23:48
by
スーダラ
「僕たちはあまりにも幼稚だった・・・。」
幼稚“だった”?
とんでもない。彼等は最後まで幼稚なままでした。アン・リーは「楽園をください」でも若さゆえの正義感から戦いに参加する人物を描いていました。「理想のための戦い」ほど純粋で、そして幼稚なものはないのです。そういう意味では最初は大物に見えたレジスタンスのリーダーの男も幼稚だったと言わざるを得ません。
「最愛の妻と娘の命を奪われた復讐を果たすため」
そんな動機、そんな意志では「男」を殺すことなど出来ません。
彼を殺すことが出来るのは、彼と同じ孤独と心の闇を抱えた人物だけです。深い深い闇の中で彼と通じ合える人物。
「三年前とはまるで別人だ。」
映画では詳しく語られることのなかった三年間の真実の中にも答えはあります。
でもやはり本当の答えは「彼女」の女性としての本能、本性。大義とも信頼とも忠誠心とも無縁で、そして、どこまでも深く暗い場所へ堕ちていってしまえる底知れぬ強さが「彼女」にはありました。
「彼女」のそれは、感情を捨てて任務に徹しきれる強さなのでしょうか。それとも100%感情に身を任せて全てを投げ出せる強さなのでしょうか。
「幼稚な仲間達」の中で唯一人、同姓である女友達だけは「彼女」の奥底にあるそんな心の闇や強さを僅かに嗅ぎ取っていたようにも見えました。
「彼女」の唄う切ない愛の歌に涙する「男」。最後の最後に情に流されてしまった彼もまた結局は幼稚な男達の一人だったのでしょうか。
パックリと口を開け地獄までも続いていそうな穴を前に唯一人後悔も動揺も見せない「彼女」。「男」が死刑執行書にしたサインは、深い孤独と闇の中だけで結ばれることを許された二人の宣誓書のようでした。
2008年05月08日17:17
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