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個人と国家
2021/2/23 21:35
by
odyss
実話が元になった映画だそうです。
デンマークの青年が、体操で国家代表になるはずのところ、土壇場で負傷して代表からはずれて、写真家になるというもう一つの夢を追おうとしてシリアに出向いたら、イスラム国のテロリストに拉致されて・・・という筋書です。
イスラム国のテロリストたちの粗野な実態も見ものではあるのですが、私は別のことを考えていました。
例えば日本でも1970年代の連合赤軍に代表される極左学生集団は人間のモラルなんか無視していたわけですから。
ソ連のスターリンや中国の毛沢東だって同じです。スターリンの殺した人間の数は一千万人以上、毛沢東は二千万人以上と見積もられ、ヒトラーなんか論外だったのですから。つまり、ナチズムというイデオロギーより、共産主義というイデオロギーのほうが大量に人を殺しているわけなんです。
極端なイデオロギーに囚われるというのが人間の宿命だとするなら、この映画はまさに反面教師的にではありますが、「人間」を描いているのです。平和な日本に暮らす人間がいかに憤激しようと、これこそが「人間的」なんですよね。
あと、主人公の所属国家であるデンマークが、テロリストとは交渉しないという建前を貫いているところが、私には印象的でした。この映画では途中で、フランス人の人質は解放されますが、もしかしたらフランスは(建前ではデンマークと同じはずですが)、裏工作をしてテロリストに妥協したのかも知れません。
つまり、そのように、個人と国家の関係は微妙なのです。
主人公に共感しつつ感情移入して見てもそれなりの映画なのですが、そういう国際情勢の複雑さを考えながら見るのが、本質的な鑑賞の仕方でありましょう。
敢えて欠点を挙げるなら、イスラム国を生み出した欧米の政治政策の失敗をスルーしているところでしょうか。
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