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来たれ、スターリニズム映画の時代
2020/8/14 14:57
by
odyss
スターリニズムによるウクライナの大飢餓、そしてそれを報道するジャーナリストを描いた映画です。むろんと言うべきか、実話に基づいています。
西側諸国が1920年代末から始まった経済恐慌に悩んでいる中、ソ連は好景気と伝えられていた。英国の駆け出しジャーナリストがその真相を探るためにソ連に入国し、監視するスパイの目をかいくぐって悲惨な大飢餓の現場を目撃し、それをなんとか報道する様子が迫真の映像で眼前に繰り広げられます。
ここで大事なのは、真相が報道されたからそれがすぐ人々に信じられたわけではない、というところです。
ニューヨークタイムズの有名記者(ピューリッツァー賞受賞)は、ソ連当局の意向を反映するような記事しか書かなかった。
米国を代表する高級紙の看板記者と、英国の駆け出し記者の言うことの、どちらが多く信じられたかは言うまでもありません。
ここに出てくるNYタイムズ記者だけではない。あの頃は、ロマン・ロランなどの有名作家がソ連を訪問して、ソ連のお膳立てをした(人々が幸福に暮らしていると見せかけた)町村を見学して、ソ連は素晴らしいといって賞讃しました。当時はそういうインテリが少なくなかったのです。
しかし同じフランス作家でもアンドレ・ジッドは、ソ連を訪問するばかりでなく様々な文献を探索して、ソ連の内実はかなり悲惨だと指摘した『ソヴィエト旅行記』を発表しました。
フランスでは、戦後になっても、いわゆるカミュ=サルトル論争でこの点が問題になりました。ソ連には強制収容所があるからその政治体制には問題があると述べたカミュに対して、サルトルは社会主義は歴史の必然だから欠点を指摘するのはよろしくないと擁護しました。
しかも、この論争が行われた当時、フランスの知識人の多くはサルトルに味方したのです。
フランスのインテリがいかに駄目かが、ここから分かるでしょう。むろん、これはフランスだけの話ではなく、米国でも日本でも状況がそんなに異なっているわけではありませんでした。
世にナチ映画は多い。ヒトラーやナチの暴虐や狂気、強制収容所の悲惨さを描いた映画です。
また戦後米国を襲ったマッカーシズムを描いた映画も少なくありません。近いところでは『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』などがそう。
また、当サイトのFT板には「マッカーシズムと映画」という話題のスレッドが存在します。
https://cinema.pia.co.jp/com/0/336299/
しかしスターリニズムを描いた映画はあまり多くないのではないでしょうか。
むろん、全然ないという意味ではありません。最近では『スターリンの葬送狂騒曲』がありますが、作ったのは英仏で、肝心のロシアでは上映禁止になりました。その際にロシアの映画監督ニキータ・ミハルコフもこの映画のロシアでの公開に反対したというのは、まことに残念な事実だと言わなくてはなりません。なお、この点についてはこの映画についての私のレビューをお読み下さい。
https://cinema.pia.co.jp/imp/175562/1219066/
この『赤い闇』はポーランドの映画監督の手になるのですね。そうだろうなと思いました。
長い間、ロシアやソ連の圧迫下で苦しんできたポーランドの監督だからこそ、ソ連の闇をあばいた映画を作ることができたのでしょう。
ナチ映画の時代やマッカーシズム映画の時代の後には、スターリニズムの実態を描いた映画の時代が来るのでしょうか。そうなって欲しいと私は祈願しているのですが。
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