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役所広司の渾身の演技に圧倒される
2021/2/22 22:06
by
みかずき
観終わって、すばらしき世界という題名は、生き辛い今の社会を皮肉ったものではなく、目指すべき社会のことを強く示唆していると感じた。
本作は、人生の殆どを刑務所で過ごしてきた男が、最後の更生のチャンスに賭けて懸命に愚直に生きる姿をリアルに描いた作品である。犯罪者の更生を描いた作品は多いが、本作ほど、犯罪者の人間性を浮き彫りにした作品はない。犯罪者を演じる役所広司の渾身の演技に圧倒される秀作である。
本作の主人公は、13年間の刑期を終え出所した、元殺人犯の三上(役所広司)。彼は、更生するため、懸命に努力していくが、なかなかうまくいかず、悶々としていた。TVディレクターの津野田(中野太賀)、TVプロデューサーの吉澤(長澤まさみ)は、そんな彼に近づき、彼を題材にしたドキュメンタリー製作を目論んでいくが・・・。
本作のキーパーソンは役所広司である。曲がったことが嫌いで、困っている人がいると黙っていられない直情型性格でトラブルが絶えない、不器用で武骨な三上という男に憑依したような演技と、役所広司の持つ優しい佇まいで、三上の生き様、人柄を表現している。
身元引受人の弁護士をはじめ、彼の人柄に惹かれた支援者たちに助けられながら、主人公は、更生するために、愚直に行動していくが、犯罪者の更生を阻む多くの壁が待ち受けていた。壁に藻掻き、自暴自棄になりながらも、更生への道をひたすら突き進んでいく主人公の姿は胸に迫るものがある。
本作は、主人公が出所したところから物語が始まる。罪を償ったところから物語が始まる。主人公の過去を映像で見せつけることはない。そこに作り手の意図を感じる。罪を憎んで人を憎まずという諺を思い出す。劇中、娑婆の空は広い。という台詞がある。広い空は自由の比喩であろう。どんな人間でも自由に生きることができる社会。生き辛さを感じることのない社会。それが、我々が目指す社会であるということを本作は、鋭く問題提起している。
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