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在日の苦難を描きつつ人類普遍の域
2018/6/14 0:25
by
あざらしmam*
扱っているのが在日の方々の家族史、ということで
小説やメディア作品やネットで触れる以外さほど歴史に詳しくはなく、原作となっている舞台作品も観る機会を得ていない者が、映画作品を初めての機会として観るには、正直言うと身が竦む思いがありました。
戦争、民族、偏見や差別。何一つ解決していないそれぞれが重過ぎ、大きすぎる。
エンターテインメントとして受け取って良いのだろうか。「楽しめる」のだろうか。楽しんで、良いのだろうか。
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結論。全っっ然!大丈夫でした。
手が冷たくなるほど緊張して、背中コチコチで見始めたんですが、
監督の大きな掌の上、広いあったかい懐の中で安心して振り回され、何のてらいもなくゲラッゲラ笑って、手放しで泣いて、最後は涙拭くのを諦めてエンドロールを茫然と見送りました。
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描かれているのは歴史の狭間に置き捨てられた在日の一家。
時代の波に翻弄されていく小さな集落の中の、さらにちっぽけな一軒なのに
理不尽の極みの苦難も差別も偏見も、すべての特殊事情が燃え盛るマグマとなって、とてつもなくパワフルな人類普遍の家族愛の物語になっている。
胸が潰れそうに痛い、可哀想だ、日本人の一人としてただただ申し訳ない。どうしてもそれは思うんですが、
それをも含め、つらい、悲しい、切ない、やるせない、ぜんっっぶブッ飛ばして
この家族が好きだ、この物語が大好きだ
一人一人抱きしめたい、抱きしめ返してもらいたい
見終えてただ「彼らに会えて良かった」という収支に圧倒的に落ち着く後味が、しみじみと最高です。
なんて熱いマグマに触れたのか、あたたかいエネルギーを頂いたのか。忘れていた沢山のものを思い出させて貰ったような。
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何たる贅沢、たった数十人占めで監督と舞台キャスト(次女役)の方のアフタートーク付きの試写会(2018/04/12)で拝見したのですが
なるほど、建込みセットの焼肉屋以外の外界はすべて「舞台では観られなかったシーン」になるんですね(o・д・)
映画ならではの演出もあり(舞台未見の私にも「これは映画オリジナル演出だろう」と分かりました。「舞台ではこうだったろう」って予想も当たりました。そのくらい、てらいなんて卑しさがなく、率直で雄弁な画創りに感じます)
映画らしからぬ「ドキュメント」風カメラ(←監督さま:笑)が捉えた、舞台さながらの臨場感ある長回しもあり(楽しくも実にチャーミングなシーンです、ご期待下さいv)
映画と舞台、両方の世界に精通した監督が
「沢山の方々に支えられた、幸福な作品になりました」と愛情と自信たっぷりに語られる、そうだろうなぁ!と思うしかない熱と温もりに浸りきりました。
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もっと泥臭い生々しい世界と人物像を覚悟して勝手に身構えていましたが、その予想もひっくり返されました。
猥雑な活力も横溢しますが、それとは別に、美しさに溢れていることに驚かされました。
エネルギッシュだけど、底堅い品位あるロマンティック。
ラブシーン 綺 麗 でしたぁああーーー!!!
キャスト全員が殻をドッカンどっかんブチ破ってホンットに目ウロコなんですが
誰よりも作品を支えて、父親の品格がとにかく素晴らしいです。彼の語る「声」ひとつで、こんな苦難の底にある人間がなお気高いこと、尽きせぬ愛情に溢れている奇跡に額ずきたくなりました。
観られて良かったぁあ‥‥‥!
「これまでの舞台や映像作品では見たことのない大泉さんの『顔』が撮れたと思っています」
との監督の言に期待度MAXで臨みましたが、その言葉にウソはない! 初めて観るような彼に魅了されっぱなしでした。
いつも通りの、憎めない可愛らしさと苛々しちゃう鬱屈が抱き合わせドッサリ過積載の役柄なんですが
こんな原初のパワーが迸るような、匂うような男っぽい艶っぽさ! 見たことありません。
ゴミ溜めのような一景の中にあって、なんて瑞々しい表情の鮮烈。ため息しか出ない!
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後日追記。2018/06/12鄭監督・藤村D・嬉野Dお三方のトークショー付き上映会で2度目を観ました。
号泣するのが分かっているのに、八方手を尽くして観たい、公開までなんて待てない!
ただもう一度、あの家族に会いたい!と焦がれる思い。
恐ろしい中毒性だわ。公開したら能う限り通うんだ見てろぉ〜。
初見時、悲鳴が出そうになった箇所があります。
とある登場人物の今後数十年の運命に関わることです。
今回2度目、その同じシーンを、前回には予想だにしなかったとてつもない感慨とともに観ることになりました。
米朝首脳会談という歴史の大きなうねりを、こんなところで、こんなにも他人事でなく、逆巻く動揺もろとも受け止めることになろうとは‥‥!
この2018年6月に公開されることが、この映画の持って生まれた運命なのか、とすら思います。
観るべきです。
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