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高良・上戸・余・西田…
2017/11/20 6:44
by
やまのさかな
DVDで視聴。
(高良健吾を観たくて…初の時代劇出演?…大丈夫かな…と恐る恐る…結果的には、感動した。高良健吾と上戸彩の若い二人が余貴美子と西田敏行に支えられていてほんとに素敵な映画になっていた。)
「料理上手の「出戻り娘」が嫁いだのは「でき損ないの包丁侍」。二人は本当の夫婦になれるのか?」というあおりと、「「料理」で動乱を乗り越えた実在の家族の物語」というリード文を、DVDケースで読んで抱いたイメージと、観終えて振り返ってみた印象にズレがあった。
むしろ、この物語は「長男が亡くなった喪失から立ち直るための、次男坊の葛藤を中心とした舟木家という家族の歩みを描く」というものだと思った。加賀藩の藩政改革をめぐる動乱のエピソードとか藩の料理方としての重責とかはそのストーリーを支えるために必要最小限に絞って織り込まれたものでは?という、印象。
そういう意味で、高良健吾の「次男坊」が見事で、その息子を見守る父母の温かさ力強さが嬉しかった。(上戸彩の明るく健気な「嫁」がとても良かったのは言うまでもない)。
高良くんの「安信」は次男として生まれたから、兄は「料理方」としての家督を継ぐわけだけれど自分は…と考えながら成長してきたはず。幼いころから道場に通い、剣の腕を上げ、認められて師範代として子供たちの稽古を面倒見たりまでしていて、あと少しで、道場を継ぐものとなって剣の腕で人生切り開いていくステージに立てる…というところまできていた。それが流行り病で長男が急死。舟木家の跡取りのつとめがいきなり回ってきて、これまで真剣に努力してきた剣の道を諦めて、まったく準備もできていないまま料理方のお役目に放り込まれて…。
もとは素直で真面目な性格だから、舟木家のため父と母のため、人生を突然に切り替えるということを頭ではきちんと分かっているのだけれど、心が整理しきれていない、それが料理に対するときの素直でない言動に出てきてしまう、そもそもの資質としてはそれなりに味覚とか手指の器用さとかはあるのだけど…まったく修業期間もないままに料理方とか言われたって…というのが…。
観ているこっちは可愛くて仕方なかった。
安信の両親も次男坊の葛藤とそれでも努力しようとする気持ちをわかっていて見守っているし上戸さんの「春」もそれに気づいている。
そういう中で安信の幼馴染であり剣と恋のライバルでもあった定之進(柄本佑が好演)が「藩政改革」を巡る争いのなかでお咎めを受けて逃亡する。自分も同じ場所にいたはずなのに下級藩士扱いの舟木家にはお咎めはない。小舟で逃げる二人を見送る安信。(逃げる二人のために弁当の包みを準備して安信に託している、春…)。
一方の春のほうも孤児になっていた自分の料理の素養を見込んで江戸屋敷での女中として引き立てて下さっていた「お貞の方」さまが陰謀に巻き込まれて幽閉されたことで心を痛める。それを安信は思いやって、密かに料理方の仲間に頼んでせめてもの「料理の差し入れ」が春にできるように手配する。(おまえのためではないおれが納得できないだけだと言いながら。たぶんこのいきさつを父母も知っていて見ないふりをしている…。)
親友が組していた一派が粛清された後の「新体制のお披露目」のための「宴」。
加賀百万石の「饗応の宴」を率いる栄誉が、舟木家にとってほんとうに一世一代のほまれ、と分かってはいても、安信は気持ちがついていかない。
父親はそれを分かっているから、待っている。
母親はそして、若い二人を見守り、二人の危機に際しては本当の全身でこれを阻止する。
素敵な時代劇だと思いました。
流血する場面とかのない、でも人の心の交し合いや真剣であればこその迷い苦しみが、「武士」としての立ち方との兼ね合いで見え隠れしていると感じました。
(「包丁式」を執り行う安信とそれを見守る伝内とか、そういう場面の美しさも素敵だし…。)
手元に置いて何度も観返すことのできる、作品だと思います。
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