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弱い犬ほどよく吠える
2012/10/13 10:03
by
vivie
エンタメ・サイドの北野ワールドを堪能しました。続編として過不足のない作品、まず脚本が秀逸でした。唐突なシーンから始まるオープニングに、前作は二年前の公開時に観ただけで(ただし二度観た)うろ覚えになっていたので、ついて行けるかなと一瞬危惧したのですが、前作を思い出させつつ多くの登場人物を自在に操る緻密な脚本に引き込まれます。意外な展開なのに腑に落ちるところから鑑みるに、当初から二部作を想定していたのでしょうか。前作の伏線もきっちりと回収されて、北野監督の職人技が楽しめました。
前作ではあまり意識しなかったのですが、今作には初期の北野作品を思い出させるところも多々あります。オープニングやエレベーターのシーンはもろ『ソナチネ』。そういった直接的な引用以外にも、バッティングセンターのチンピラと客のやり取りの痛面白い感じは『3−4x10月』、階段に転がる死体の数々がかもしだす乾いた抒情は『ソナチネ』を思い出させます。あの死体のポーズとかその画面の切り取り方とか、理屈抜きに好きなんですよね。過去の自作を踏襲しつつ娯楽作品として成立させたところも高得点。
男なら一度はやりたいヤクザ役。キャストの面々も観ていて超楽しかったです。キャンキャン吠える加瀬亮には「血管切れるで」、やり過ぎ感ただよう神山繁には「やっとる、やっとる」など、心の中でツッコミ入れつつ楽しませていただきましたが、今回の一推しは新井浩文と桐谷健太のチンピラ二人組(ふたりを主役にスピンオフを作ってほしい。痛切ない青春映画)。彼らと中野英雄(好演)の木村サイドの部分が心に染みました。権力を巡って損得だけで動いている他の登場人物たちの中にあって、その温かみは珠玉。そして権力に背を向けた大友が最後に強い印象を残します。
逆転に次ぐ逆転というダイナミズムと過激な暴力描写で魅せた前作を「動」とすると、立場の逆転による登場人物の心情変化に重点を置いた今作は「静」といってもよいでしょうか。同じことはやらないよ、という北野監督の声が聞こえてきそうですが(笑)、それを前作同様、人間悲喜劇として見せたところに見応えがありました。
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