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斬新な“視点”で体感させる戦場の狂気

2010/12/09 (木) written by 高橋諭治(映画ライター)

イスラエル人監督がレバノン戦争を描いた『戦場でワルツを』が、世界中で多くの賞に輝いたのは記憶に新しいところ。同様の題材をまったく異なるスタイルで映像化した衝撃作が新たに誕生した。



これを撮ったサミュエル・マオスという新人監督は、『戦場でワルツを』のアリ・フォルマン監督と同じく1980年代のレバノン戦争に実際に従軍した経験の持ち主。『戦場でワルツを』は監督自身が失った戦場での記憶を取り戻そうとする道程をアニメで表現したユニークな“ドキュメンタリー”だったが、この『レバノン』という映画もあっと驚く大胆な構成を採用している。

主人公はイスラエル軍の若い兵士4人。一台の戦車に同乗した彼らは、広大なヒマワリ畑を抜け、敵地へと進撃していく。さあ、お国のために闘うぞ、敵を皆殺しにしてやるぜ、などという高揚感はどこにもない。アシという指揮官のほか、それぞれ操縦、砲撃、弾薬の装填を担当する4人は実戦経験が乏しく、行く手に何が待ち受けているのかと漠然とした不安に駆られている。

カメラは全編に渡って戦車の内部にとどまり、外の様子は砲撃手の一人称視点によるスコープ映像からしかうかがうことができない。いわばこれは観客を強制的に極限状況へと引きずり込む体感型の密室スリラーのようなもので、そのただならぬ息苦しさは潜水艦映画を観ている感覚に近い。やがて白昼、敵の市街地に入った砲撃手のスコープが捉えるのは、イスラエル側の歩兵によって無残に殺害された一般市民たち。それらは人間の原形すらとどめておらず、もはや死体とも言い難い血まみれの肉塊の数々だ。

視界が極端に限定されているため、私たち観客は劇中の兵士4人がそうであるように、戦車の外で何が起こっているのか嫌な想像力をかき立てられ、居心地の悪いサスペンスに襲われる。やがて砲撃手はさらなる見たくないものを見てしまう。それは真正面に現れた敵兵が、バズーカ砲をこちらに向けている姿だった。

戦車内の4人はどこからともなく滴ってくる油と汗にまみれ、まるでジャングルでゲリラ戦を繰り広げているかのような悲壮感を漂わせる。そうしたディテールや俳優陣の迫真の演技に加え、映画に臨場感を吹き込む撮影、音響の技術レベルは異様に高い。戦争という狂気と不条理をえぐり出した映画は幾つもあるが、この映画は紛れもなく新たな“視点”を観る者に提供している。余計なお世話かもしれないが、劇場の最前列でこれを観るのは避けたほうがいい。

【関連作品】
レバノン

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