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イランの巨匠、アミール・ナデリ『新作は本当は日本で撮りたかった?』

(2019/02/15更新)
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イラン映画の世界的地位を確立した映画作家のひとりと言っていい、アミール・ナデリ監督。日本でもなじみ深い西島秀俊主演の『CUT』をはじめ、孤高の人間の気高き魂を描き続けてきた彼だが、新作『山<モンテ>』はその系譜に加わる一作だ。


アミール・ナデリ監督

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イランの巨匠、アミール・ナデリ『新作は本当は日本で撮りたかった?』
イランの巨匠、アミール・ナデリ『新作は本当は日本で撮りたかった?』

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まずはじめに今回の作品はイタリアでのオールロケで撮影されている。でも、実は日本で当初は構想していたという意外な話を明かす。「この映画のアイデアの源流は、黒澤(明)監督映画にあるといっていいかもしれない。とりわけ『七人の侍』の影響は大きい。ご存知の通り、七人の侍は村人を大きな脅威から守ろうとするわけだけど、ここからわかるのは、その目的が大きくなればなるほど自らもまた大きな犠牲を強いられるということ。『山<モンテ>』の主人公もまったく同じで、自らを脅かす巨大な存在と大きな犠牲を払いながら対峙するんだ。根底では『七人の侍』であり、黒澤作品とつながっていると私は思っている。そこにもつながるんだけど、実は脚本は京都で書き上げた。だから、日本で作りたいと当初は思ったんだ。西島(秀俊)さん主演でね」

ただ、そのままタイトルになっている“山”の問題でそれは叶わなかった。「映画を観てもらえればわかると思うのだけれど、人間の力など到底及ばない、巨大な岩山が必要不可欠でね。日本でほうぼう探したんだけど、残念ながら見つからなかったんだ。それでどうしようかと考えたとき、ミケランジェロの彫刻が思い浮かんでね。イタリアにはあるんじゃないかと思ったんだ。でも、イタリアでも山探しは困難を極めた。所有者に話をきくと、大概が『代々大切に受けついできたもの、自分たちにとっては聖なるもので傷つけることなど許されない』と。映画では、主人公が山の岩壁にハンマーを打ち下ろすわけだけれど、そんなのもってのほかだと(苦笑)。最終的にはラッキーなことに理解を示してくれるイタリアの若者がいてね。そこで撮れることになったんだ」

映画は、中世後期のイタリア、壁のようにそびえる山に太陽が完全に遮られた村で暮らすアゴスティーノと妻のニーナ、息子のジョヴァンニという家族の物語。荒れ果てた土地では思うように作物もとれないこの土地からは次々と村人が離れていく。しかしアゴスティーノの一家は先祖から受け継ぐこの地に留まり続ける。だが、食料は底をつき、周囲からは異端者と差別され、ついには家族は離れ離れに。神からも自然からも人間からも完全に見捨てられたアゴスティーニは、家族を苦しませ続けた太陽をさえぎる岩山にハンマーを振り落とす。ちっぽけな人間が巨大な岩山に挑む姿は最初、無駄で無力に映る。ところが見続けていると、どこからか何か起きるのではないかという気にさせられ、ある瞬間になにかが成し遂げられる確信を得る。

「観る側が、主人公と同化してしまうんです。これはリスキーなチャレンジでした。果たして、私自身の感性を観客のみなさんが共有してもらえるか?それは蓋を開けるまでわからなかった。アゴスティーニがひたすら岩にハンマーを打ち下ろしている姿の連続は、観ていて苦しいから途中でギブアップして出ていく人がいて不思議はない。ただ、人間は誰しも自分の人生の中でやらなければ、やり遂げなければならない瞬間というのがある。そういうことに直面したことのある人たちは絶対最後まで残って観てくれるだろうと私は確信していました。そして闇の先にある生きる希望をきっと味わってくれると信じていました。」

その主人公と観客が同化してしまうことに大きく関わっているのが音作り。山の静けさやそこに鳴り響くハンマーの音がまさに“体感”ということがふさわしい臨場感でこちらに迫ってくる。“サウンド・デザイン アミール・ナデリ”としっかりとクレジットされていることからも、監督のこだわりが伝わってくる。「これも黒澤(明)監督の作品を大いに参考にしている。ようは、物語をサウンドで語るというかな。たとえば登場人物の心情やその状況を言葉じゃなくて、サウンドで伝えることにチャレンジしている。物語をいかにサウンドで表現できるかということ。食料をヘリコプターで運んでもらうほどの山奥で撮影していてんだけど、夜になると静寂に包まれているんだけど、なんか山から音が出ている気がするんだ。こちらが神経が研ぎ澄まされてるからかもしれないんだけど、それが僕には山が叫んでいる、怒っているような気配にも感じられてね。夜の山の音を録音して、それを生かしているところもある。今回は音作りにはほんとうにこだわったよ」

それにしてもナデリ監督の映画には今回の主人公を含め、心の折れない人間が登場することが多い。「僕自身がそうだからね(苦笑)。どこかでギブアップするとあとで後悔する。後悔だけはしたくない人間なんだ。あと、人間が大きな困難に立ち向かうというのは、昔からあったこと。そして今後も永遠にあることだろう。つまり普遍の物語ということなんだ」

撮影は約4か月。先ほど触れたようにヘリコプターで食料が運ぶほどの山奥で行われた。過酷な撮影だったことは想像に難くない。「標高2500メートルの山の中での長期滞在ロケでしたから、大変な撮影になることはわかっていました。私は常にスタッフとキャストに言っていました。『耐えられない人はヘリに乗って帰っていい』と。でも、誰も帰らなかった。たぶんみんな思いは一緒。己がどこまでいけるのか、その限界も知りたかったし、この映画の主人公の限界と終わりを見定めたかった。たとえば役者に衣装は最初着たものを、ずっと着続けてもらった。だから、最後は原始人のようなむき出しの人間になっていった。過酷な撮影に挑んだスタッフも一緒で、4か月もの間、あの山の中にいたから、最後は獣のようになっていた。自分たちも、巨大な山に恐れおののいたり、怒りをぶつけたりと主人公の感情と呼応していった。とても苦しくて投げ出したくなったときもあると思う。でも、みんな踏みとどまって最後までやり抜く気力は途絶えなかった。ただ、これは特別なことではなくて、私の作品はいつもこうした行程を経て、生み出されるのです。だから、僕はスタッフもキャストも仕事仲間というよりは、同じ道を歩いて目的地に辿り着いた、同じ旅人だと思っています」

映画作りは不思議な出会いの連続だと明かす。「自分ひとりでは映画は作れない。ですから、これを作りたいとまず念じてシグナルを出すんです。すると不思議なことにこのシグナルをキャッチしてくれる人が現れる。それはだいたい、私と同様になにか自分への答えを探している人。例えば撮影監督なら単に撮影するのではなくて、なにか自らを証明したいと考えている人が集まってくる。役者もお金目当てのような人はこない。そもそも潤沢な資金や予算はありませんから。私のシグナルをキャッチしてくれるのは、みんなお金や名声のためじゃないんです。自分から理由を聞いたことはないのだけれど、彼らからよくこう言われます。『自分が変われるんじゃないか、自分の殻を打ち破りたかった』と。たとえば、今回だったらイタリアの有名なプロデューサーがオーディションを開いてくれて、すばらしい俳優を集めてくれた。その中で、ニーナ役のクラウディア・ポテンツァーは会うなり『ナデリさん、私を待っていたんでしょ。来ましたよ』と。そのひと言で、私は『彼女だ』と思いました。彼女に話を聞くと6歳になる娘がいると語り、こう続けました。『ただ、撮影中、子どもは親に預けます。でも、この映画をやり終えたら、どんなことがあっても彼女のことを一生愛し続けて生きていける気がするんです』と言いました。つまり彼女はこの作品を経験することで、これまでとはなにか違う世界を見れるとおもってきたわけです。こんな感じで私の現場はいつも人生の一部を共有しようという人が集まってきます。西島(秀俊)さんもそうでした。自分で意識したことはないんですけど、いつも不思議とそうなるんです。私と仕事することはエンジョイできることばかりではない。むしろ苦しいことが多い。でも、不思議な縁で結ばれた人たちが集まってくるのです」

今回の作品が日本で公開されることは待ち望んでいたことだと言う。「日本でインスピレーションが生まれ、京都で脚本を書き上げた。その日本で生まれた映画作りのムード、カメラの動き、編集の仕方などのアイデアをすべてもってイタリアへ渡って撮った。つまりタネがまかれたのは日本だったのです。だから、この映画が日本で劇場公開を迎えることはすごくうれしいです」

日本ではようやく『山<モンテ>』が公開を迎えたが、すでに新作『マジック・ランタン』も完成させている。こちら久々にアメリカで完成させた1作。『山<モンテ>』とはまったく違う映画だと言う。「友人にも言われたんだけど、自分の原点に戻った作品といっていいかもしれない。1974年に発表した『期待』は、自伝的な作品のラブストーリー。それを今の自分の年齢になって撮ってみたら? といったことにチャレンジした作品なんだ。変な話なんだけど、今でもこの映画を観ると、『誰が作ったんだ』と思う。それぐらいなんか夢の中で作ったような気分になる。もうひとつ言うと、溝口(健二)監督の『雨月物語』へのオマージュも入った作品です」

対話をしていてもこちらが圧倒させるほどパワフル。70代半ばに突入していることを忘れさせるほど若々しい。そして、言葉の端々から映画への愛が溢れ、その映画への情熱はまだ冷めやらない。「自分の作品と作品の間には、どうしてもちょっとしたブランクができてしまうもの。でも、その時間もなるべく無駄にしないで映画に関わるようにしているんだ。たとえばラミン・バーラニ監督の2018年の映画『華氏451』で脚本を手掛けたりね。ラミンはアメリカ育ちのイラン人映画作家で、僕にとっては弟子のような存在。ほかにも彼の作品にはいくつか参加している。彼はすばらしい才能の持ち主だよ。自分で言うのもなんだけど、最近は、彼のほかにも、私の作品から影響を受けたイラン人監督が続々と登場している。これはとてもうれしいこと。ただ、僕も負けていられない。永遠に映画を作り続けるよ(笑)」

『山<モンテ>』
公開中

取材・文:水上賢治

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