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「心して挑んだ映画」 武正晴監督と村上虹郎が語る映画『銃』

(2018/11/16更新)
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見てはいけない人の心の奥底に眠る本性を見てしまったのではないだろうか? 芥川賞作家、中村文則のデビュー小説を映画化した『銃』は、そんな危うい感触の残る1作だ。それを容赦なく描き出した『百円の恋』の武正晴監督と、主人公のトオル役で体現してみせた村上虹郎。ふたりの対談で作品を紐解く。


武正晴監督、村上虹郎

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「心して挑んだ映画」 武正晴監督と村上虹郎が語る映画『銃』
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まず最初に、本作に触れる上で絶対に欠かせない人物がいる。それはプロデューサーの奥山和由の存在だ。今回、奥山から声がかかったことをふたりは、感慨深くこう振り返る。

武「(自身の)助監督時代に時間を巻き戻すと、僕のようなほんとうに下っ端の助監督からすれば、奥山さんは雲の上の存在で。たとえば石井隆監督の『GONIN』とかの現場で奥山さんを見て、知っているから、余計においそれとこちらからは近づけない。そういう存在から、突然電話がかかってきたら、やっぱりちょっとドキッとしますよね(苦笑)。だからお話しをいただいたときは、ひとつの覚悟が必要というか。いつも飄々とされていますけど、眼力は鋭いですから、思いましたよ。“心して挑まないと”と」

村上「まず、奥山さんに声をかけていただく以前に、この作品には不思議なめぐりあわせを感じたというか。お話しをいただく前に、原作はすでに手にしていたんですよ。初舞台の共演者の方にいわれたんです。“虹郎にぴったりな本があるよ”と。それが、僕が読むと気に入るのか、演じたらぴったりということなのか、いまだにはっきりしていないんですが(笑)。だから、奥山さんからお話しがきたときは、もうビックリを超えました(笑)。“ほんとにきちゃったよ”といった感じでしたね。奥山さんは僕にとってはもう伝説のプロデューサー。先ほど出た『GONIN』は大好きな映画だし、とりあえず日本で映画に携わるならみておくべき映画みたいなラインナップがあったら、そこに必ず名前が出てくる存在じゃないですか。しかもキーマンとして。撮影時、20歳でしたが、いまの自分は、いわば横軸の存在といえる同世代の俳優やスタッフも大切ですが、縦軸といえる日本映画をずっと支えてきた方々により会いたい気持ちが強い。たくさん現場の数を踏んで長く映画の現場で生きてきた人たち、たくさんの死闘を繰り広げてきた人、そういう人たちと変な話、死ぬ前に一度ご一緒したい。だから、奥山さんからお話しをいただいたときはもう単純に“よっしゃ!”という感じでしたね。それと武さんと、リリー(・フランキー)さんともご一緒できる。僕としては現場のワクワク感が半端じゃなかったです」

武「その気持ち、よくわかる。俺も助監督時代、今なら黒澤明監督にギリギリあえるかなとか。市川崑監督に会えるかなとか、出没しそうなスポットで張ってた経験があるから(笑)。今でいう日本映画界のレジェンドのそばに行きたい気持ちはあるよね。そういう意味で、奥山さんは、今の若手にとっては残っているレジェンドのひとり。日本映画の継承みたいな意味合いも今回の現場はあったかもしれない」

作品は、ある雨の夜、偶然、「銃」を手に入れてしまった大学生の西川トオルが主人公。一丁の拳銃を手にしたことで呼び覚まされてしまったトオルの心に眠っていた闇であり、人間の心に潜む邪悪な本性が露わとなる。この物語とふたりはどう対峙したのだろう?

武「原作や物語の前に、いつもそうなんですけど、まずはこちらの姿勢が大切なんです。今回でいえば、まずは虹郎くんが演じるトオルの環境を整備することが最重要課題。なのでまずは、舞台の高島平にいってみました。そこでトオルのように孤独にひとりで町を歩いてみたんです。それで原作を読みながら、このへんのアパートは確かに雰囲気が似てるなとか、この喫茶店、ぴったりだなとか自身でトオルの生きている場所を感じる。そして、少しでも疑問が出てきたら、原作者の中村さんのところにいって、直接聞いてみる。こうして、トオルの生きている場所の環境を作っていきました。トオルの生きている環境に、虹郎くんを放り込むことが大切でした。そうしたら、撮影を前に虹郎くんから連絡がきた。“撮影現場のアパートって何日前ぐらいから入れますかね”と」

村上「今回のトオルはそういうことをしておく必要を感じたんですよね。その土地や場所での彼の生活と、彼の態度や行動を切っても切り離せないというか。その土地で生きているから、そのしぐさや口調になるといった形を自然に出すには、そこで実際に自分が生活しないと話にならないなと。ただ、驚きました。アパートにいってみたら、もうすでにトオルの空間になっていた。もっといえばトオルにとっての快適な暮らしやすい空間になっていた。お風呂だけはなくて、銭湯に通っていましたけど(笑)、トオルの生きている場所になっていた。なので、あとはその空間に身を委ねばいいというか。余計なことは考える必要がなくて、その分、トオルを演じることにただただ没頭すればよかった。これだけ演じることだけに集中した役はいままでなかったかもしれない」

その身も心も同化したような凄まじい演技は、もう映画を実際に見て確認してもらうほかない。

武「“トオル=村上虹郎”からカメラが離れずにすべてを撮ってやるんだと。それぐらいの集中力でこちらが挑んだとき、村上虹郎の身に何が起こるんだろうと思ったんですけど、もうすべてのものをキャッチする状態になっていた。だから、(撮影する)こっちも気が抜けないんですよ。虹郎くんの目に入るものをコントロールしておかないと、それが如実に出てしまう。トオルの目に入る必要性があるものだったら、それは役に好影響を与えるんだけど、そうでないものだと役には悪影響になってしまう。それぐらい虹郎くんは、研ぎ澄まされた反応をみせていた。大げさではなく、もしトオルが“こいつは撃ってもいい”と思っちゃうような人物が大勢のエキストラに交じっているだけ、その人物を撃ちかねない(笑)。それぐらいの状態になっていた。だから、多くのものが目に入る、広く町を捉えての撮影は大変。でも逆にやりがいもある。目に入るものをきちんと整理できれば、これ以上ないぐらい隙のないフレーミングを作ることができるから。実際、そうなっていると思う。当時、彼は20歳でしたけど、もうこの場限り、このときだけにしか生まれなかった何かがこの映画の大きな力になっている気がします。また、そのパワーが実は原作にある得たいのしれないパワーにも通じているのではないかと思います」

村上「撮影から1年ぐらいしか経っていないのに、なにかもう遠くのことというか。なんか一瞬でしたが、その中で何十年分もの時間と心血を注いだような感覚が残っているんですよね。それぐらいじゃないと、中村さんの原作が持つパワーに負けていた。トオルという人物に拮抗できなかったのかもしれない」

武「それはあるかも。俺もきつかった。(撮影期間は)短かったけど。撮影がきついとかじゃなくて、精神的にきつい。なにか追い込まれるところがあった」

村上「このあとに『ハナレイ・ベイ』の撮影に入ったのですが、逆だったらできていたかわからない。南の島の大自然に囲まれての撮影の後、このトオルの気持ちになれたかなと。『銃』の撮影が終わった直後からずっと風邪をひいていて、しばらく体調不良でした(苦笑)」

武「実は、自分もこの後、鹿児島の大自然の中での撮影で、心が一気に解放された(笑)」

こうして村上が体現してみせたトオルは最後の最後に人としての一線を超えてしまう。その場面にはキーパーソンが登場する。このキャスティングはある意味では掟破り。でも、もうこの人しかありえない配役でもある。

武「実は当初、別の俳優さんを予定していたんですけど、もろもろでダメになって。さあ、どうしようかとなった。僕の中では、虹郎くん、広瀬アリスさんを筆頭にした女優陣、リリー(・フランキー)さんの次に重要な役で。色のつきすぎている人でも嫌だし、ついていない人でも困る。そのとき、ふっと頭に思い浮かんだのが彼で。でも、これってありなのかなと。禁じ手に近いなとも思ったんだけど、もうそう思ったらほかに代案が出てこない。ちなみに奥山さんに相談して、せーので起用したい役者の名前をいいましょうといってやったら、同じ名前を挙げたんですよ。だったら、もうダメもとで頼むしかないなと」

村上「僕自身もこの共演は特別な時間になったことは確かですね」

『銃』
11月17日(土)よりテアトル新宿ほか全国ロードショー

取材・文・写真:水上賢治

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