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集大成ではなく“その先”へ。是枝裕和監督が語る『万引き家族』

(2018/06/15更新)
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『そして父になる』『三度目の殺人』の是枝裕和監督の新作映画『万引き家族』が公開中だ。本作はカンヌ国際映画祭コンペティション部門の最高賞“パルムドール”に輝いたことで大きな注目を集めており、一部の記事では、是枝監督の集大成的な作品と紹介されている。しかし、監督本人は「僕はこの映画を集大成とは思ってないですから。僕は欲が深いので」と笑う。


撮影中の是枝裕和監督

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集大成ではなく“その先”へ。是枝裕和監督が語る『万引き家族』

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是枝監督はいつも複数のアイデアやプロジェクトを構想し、準備を続けているが、本作の創作が本格的にスタートしたのは、2013年製作の『そして父になる』が完成した後だったという。「あの映画では“家族は血なのか? 過ごした時間なのか?”を考えて、その答えはまだ出ていないですけど、あの映画が終わった後、その先に何を“問い”として立てるか考えたときに、一般的に“血”がつながっていないと家族になれないとして、それを超えて家族になろうとする人たちの話をやろう、というのはすんなり出てきたんです。その考えを核にしながら、血縁以外のものでつながる共同体の話を考えていたときに思いついたのが“犯罪でしかつながれなかった”というキャッチコピーで、それをノートの1行目に書いて考え始めました」

本作に登場するのは、東京のどこかの街で暮らす一家。彼らは、そこで暮らす“祖母”の年金を生活費のあてに集まっており、決して高くはない時給の仕事で稼ぎ、それでも足りない分は店から生活用品や食料を盗んで暮らしている。祖母、父、母、母の妹、息子、そしてある偶然から家族に加わった幼い娘……彼らは裕福ではないが、幸福に暮らしている。そんなある日、事件が起こり、社会は家族を引き裂こうとする。「この家族をどのように描くか考えたときに、『誰も知らない』のように“社会と家族の接点/摩擦面”を描く視座に戻ろうと思ったのは、『海よりもまだ深く』で一応、ホームドラマというか、山田太一の定義でいう“家の中ですべてが起きる話”はひと区切りつけたので、それ以降は少し視点を上げて、人間や家族を社会の中に置いてみるっていう気持ちがあったからだと思います。だから、この映画は自分の意識としては、ホームドラマではないんです」

本作では、家族の日常が丁寧に描写されるが、そこで彼らは共に食卓を囲み、ささいなことで笑い合い、少し照れたりはするが家族に深い愛情を注いでいることが伝わってくる。その一方で彼らは店から商品を盗み、偶然に出会った幼い女の子を家に連れて帰り、民生委員が訪問してくると祖母を残して全員が家を空ける。是枝監督は社会から“はみ出してしまった”家族を全編に渡って「肯定もするし、否定もする」視点で描いている。「共感と断罪、両方の目線で捉えていくアンビバレントなアプローチをして、その視点を観客と共有することで、観客が“引き裂かれながら観る”ことを強いる。それを狙ってつくっています。この映画は『誰も知らない』と同じで、ある事件が顕在化した時に“犯罪集団”として現れてくる人たちの、僕たちが知るよりも前を描くという発想なんですけど、『誰も知らない』と同じことをやってもしょうがない。それに『誰も知らない』の子どもたちを“かわいそうな被害者”として描いたつもりはないけど、あの子たちの眼差しや支え合いを無垢なものとして描きたいという気持ちがどこかにあったと思う。でも、今回はそうではないから、彼らがこちら側に問いかけるシーンもあって、犯罪者に見返される感じっていうのかな、それってムカつきますよね? だけど、そういう風に彼らに私たちが見返されることがこの映画では大事だと思ったので、単純な同情でも共感でもないし、非常に複雑な視線の交差の仕方を今回はやってみたいと思ったんです」

犯罪をしているヤツらは許せないので排除して罰すればいい、でもなく、貧しくてかわいそうな人たちを見捨てる/見てみぬフリをする社会は許せない、でもなく、様々な事情を抱えた人間を見つめ、理解しようとする試み、それ以前に“人は人を理解できるのか?”を考える試みは、是枝監督が自身で立てた問いに苦しみながら試行錯誤を繰り返して完成させた前作『三度目の殺人』から連なっている。「そうですね。あの映画では、裁く者と裁かれる者の視線がいつしか逆転する。そのモチーフはこの映画に残っているかもしれないです。『三度目…』を撮らなかったら、今回のような映画にはなってなかっただろうし、実は今回はそんなに苦しんでないんですよ。それは前回が本当に難産だったので余計に感じるんですけど、あの経験があったから、これが撮れているとは思います」

また、是枝監督は本作を「世の中から捨てられた人たちが身を寄せ合って暮らしているいい話」にしないために、人間の肉体と性愛を描くことにこだわったという。「血でつながっていない共同体を描くときに、まず“犯罪”というものを用意したけど、犯罪だけでつながれるわけじゃないから、そこに性愛を持ってこよう、と直感で思ったんです。性愛の部分を持ち込まないとすごく嘘くさくなる。単純に“世の中から捨てられた人たちが身を寄せ合って暮らしているいい話”みたいになってしまいかねないので、それを回避するためには肉体の存在感が必要だと思いました」

是枝監督は過去にも人間の肉体や、肉体を通じたコミュニケーションについて描いているが“家の中の性愛”を描くのは本作が初めてだ。「別に避けてきたわけじゃないんですけど、自分の中では立ち上げていなかった部分ではあるので、やるのであればキチンと描きたいと思っていました」。そこで重要になるのは、2009年に是枝監督が発表した『空気人形』だ。東京を舞台に、心をもった空気人形と男たちのドラマを描いた作品で、監督曰く「あの映画の肉体は一度、人形を通過しているので間接的なもの」ではあるが、本作の世界観のはじまりは『空気人形』にあるという。

「東京という街の中のリアルな描写の中に“詩”を立ち上げていく方向性で映画を設計していくのは『空気人形』に近いものがあって、脚本の中にもその要素はあったと思いますけど、脚本を読んだ近藤さん(近藤龍人。本作の撮影を手がけた)から『これはリアリズムに徹するのではなくて、色の見え方、光の見え方に関して、ある種の“寓話的なもの”を描いていく方向性で画面設計をしてみたいと思うのですが』って言われて、自分でもそのつもりでしたという話をして、フィルムテストやカメラテストでもその部分をかなり意識してやったんです。それに『空気人形』を撮りながらイメージしていたのは“人魚姫”なんですけど、今回の映画は“スイミー”が出てきて、どちらも水の底の話で、自分の中ではすごくリンクしているんです。今回の映画に“スイミー”が出てきたのは偶然で、養護施設で取材をしていたときに、親から虐待を受けて施設で集団生活をしていた女の子が学校から帰ってきて、ランドセルから国語の教科書を出したときに“いまは何の勉強してるの?”って聞いたら、教科書に載ってた『スイミー』を全部読んでくれたんですよ。そこの職員が止めるのも聞かずに最後まで読み通してくれて、取材に行ったスタッフ全員で拍手したら、その子がすごいうれしそうに笑って、『ああ、この子は親に聞かせたいんだな』って思った。そのことにグッときちゃって、これを今回の映画のモチーフとして巻き込もうと。そう思ってみると今回の映画の撮影をした一帯って、青いトタンがいたるところにあって“これはうまく撮れば海の底に見えるな”と思ったので、あの家が水の底にある小さな魚の集まりで、彼らが水面を見上げているのを、花火大会の日のシーンでやってみようかなとか、そういう発想はすべてあの女の子から来てるんだけど、それは近藤さんのスタンスと全部つながってるんですよね」

一方で、本作における肉体は、時に寓話性を排した“生々しいもの”として表現されている。「それはやっぱり、カメラと女優なんじゃないですか。『空気人形』は(撮影監督の)リー・ピンビンと(主演の)ぺ・ドゥナの存在が大きかったと思うし、今回は近藤さんと安藤サクラさんじゃないですか。もちろん、“生々しさ”は意図したんですけど、意図してできることと、できないことはあるわけで、それに応えてくれた役者がいたからできたことですよね。この映画が、ある種の生々しさや肉体性を必要としていることに脚本の段階で最初に気づいたのは、(樹木)希林さんだったんです。第一稿を読んで、まだ全体像が見える前に“入れ歯を外したいんだけど”って言われて。要は老醜をさらしたいって。私の老いた肉体がこの映画の中で必要だと。ストレートにそういう風には言わなかったですけど、そこは明快に出してきた。それに髪を伸ばしたいと、年寄りが髪を伸ばしているのは気持ち悪いと。気持ち悪さがないと、捨てられたかわいそうなおばあちゃんになるから、そうであってはいけないと思うって。それは僕にとってすごく重要だったし、この映画では、どんな風にものを食べるかがすごく大事だと思っていたんですけど、希林さんはすざまじい食べ方をするんですよ。だから、希林さんが一番わかっていたんですよね。この映画に肉体性が必要になった際、子どもがいて、夫婦がいて、その中で自分がどういう役割を担うかを明快に捉えていた。僕はそれに導かれた感じがしています」

これまでに描いてきた題材やテーマを集約するのではなく、それぞれで立てた問いをさらに深め、その先を模索する是枝監督の試みが『万引き家族』を生み出した。本作がカンヌで高く評価されたことで、是枝監督は「出会いのチャンスが広がったと思います」と笑みを見せる。「僕は放っておくと全部をコントロールしようとするので、そのことで映画が枯れていく危険性はいつも意識していて、それをどうやって壊していくのか色々やってきたつもりではあるんです。だから、撮影現場で自分のイメージを開いて、役者が持っているものを取り込んで撮っていくライブ感を失わないようにかなり意識してやらないと、悪い意味で緻密に考えちゃうんです。でもそれは嫌なので、いつも考えながら撮るんですけど、今回は主に近藤さんと安藤さんによって良い意味で僕が“壊れた”と思うので、今後もそういうチャンスをさらに広げていきたいと思っています。僕はこの映画を集大成とは思ってないですから。僕は欲が深いので(笑)、もっといいものを撮れると思っているし、もう少し先へ進みたいと思っています」

『万引き家族』
公開中

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