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「目指したのは守一さんの絵のような映画」。沖田修一監督、新作『モリのいる場所』を語る
(2018/05/17更新)
『横道世之介』『南極料理人』『モヒカン故郷に帰る』など、独自のユーモアと視点を携えた作品を発表し続けている沖田修一監督。新作『モリのいる場所』では、1977年に97歳で他界した画家、熊谷守一に焦点を当てた。

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そもそもの沖田監督と熊谷守一との出会いは、『キツツキと雨』のときのこと。今回、熊谷を演じている山崎努からその存在を伝えられた。「『キツツキと雨』のロケ地がたまたま守一さんの出生地の近くで、山崎さんに“記念館にいってみては”と言われたんです。結局、そのとき、記念館にはいけなかったんですけど、のちのち豊島区の熊谷守一美術館に足を運んだり、長年、熊谷邸に通って写真を撮っていた藤森武さんの写真集を手にとって、作品に触れた時、映画の最高の題材ではないかと。蟻とか、ほんとうに小さな被写体を、まるでこどもが描くようにシンプルに描いているところから、“どんな人だったんだろう”と勝手に想像を膨らませたり、晩年の30年、家から出なかったというエピソードから、“足腰悪くしていたみたいだけど外へ出ないってどういうこと”とあれこれ妄想をめぐらせるようになって、どんどんその存在に惹かれていきました」
もうひとつ描きたいと思った理由は山崎努の存在だった。「山崎さんと生き物が並ぶ画への興味というか。例えば、カエルを山崎さんが追い駆ける。山崎さんが蟻をじっとみている。動植物と山崎さんが戯れる。そんな山崎さんをみたことがない。その姿をシネコンの大スクリーンでみてみたいという僕の個人的な興味もありました(苦笑)」
こうして経緯から生み出された本作だが、沖田監督のオリジナル企画。熊谷という画家の功績を称える伝記映画でもなければ、その生涯に迫る肖像ドラマでもない。いつもと変わらない94歳の熊谷のあるたった1日から、熊谷守一の世界を体感させるという、沖田節の効いた味わい深い1作に仕上がっている。「そもそも僕は美術に造形が深いわけではない。伝記映画をやったところで無知を晒すだけ。なので、僕が熊谷守一の作品や資料から受けた印象や、関係者のおもしろいエピソードを拾って、自分の感じたままの守一を描こうと。守一さんの絵のように自由気ままというか。肩ひじ張らないで観れる映画。なんか画家の苦悩や孤高の精神みたいなものを描いたアカデミックな自伝映画になるのだけは嫌だった。これには山崎さんも深く同意してくれて“我々だけのモリを探そう”と。とにかく守一さんの絵のような遊び心がいい意味で余白のある作品を目指しました」
自宅と庭という限られた空間が舞台。となると、その空間造りも作品の出来を左右する大きなポイントとなる。鍵を握る美術は、これまで何度も組んでいる安宅紀史が担当。すばらしい仕事をみせてくれている。「自宅と庭の見取り図はあったんですけど、安宅さんには、“その通りにならなくていい”と。僕のリクエストとしては、守一さんが藪の中からひょっこり現れるというか。庭が“守一さんの世界および宇宙に見えるようにしてほしい”と。実際、イメージ以上の庭になっていて。ほんとうに美術部の仕事は見事でした。あと、1日の話を約1か月で撮ったので、当然、庭の草木は生きているので日々変化するわけです。ただ、1日の物語ですから、緑が多くなっても減ってしまってもダメ。庭の現状維持が大変だったんですけど、そこもみごとにやり遂げてくれました」
さらに言えば、そのすばらしい庭を生かすも殺すも撮影次第。画作りもまた重要ポイントとなるが、撮影監督は沖田組の常連、月永雄太が担当。こちらも美術同様にすばらしい仕事で、自宅と庭という限られた空間を魅惑のワンダーランドへ変身させている。「ロケ場所の隣の家が空いていたんですけど、月永さんはほぼそこで寝泊まりしていて。僕も数日泊まったんですけど、空気がいいからか良い目覚めで早起きしちゃう。じゃあ、時間があるから撮影隊が来る前に“実景でもとるか”となって。ふたりで早朝から虫の実景撮りを始める。結果、すごくいい虫の画がいっぱい撮れた。劇中、昆虫だけのシーンがいっぱい出てくるのはこの実景撮影の賜物。もともと虫がいっぱい出てくる映画にしたいとは思っていたんで、願ったり叶ったりでした。もちろん用意した生き物もいたんですけど、庭に実際にいるものの生命力には敵わないというか。こっちも自然の昆虫と触れ合って目が養われたのか、なんか用意したものは借り物っぽく映るんですよ(笑)。実際、虫の動きは読めないので難しい。通常ならCGで済ますところなんでしょうけど、それは守一的にダメだろうと思って、絶対に嫌だったんです。月永さんの粘り強い撮影に助けられました」
作り終えた今、こんなことを考えたという。「家と庭の空間だけで生活が満ち足りていた点は見逃せないというか。いま世界がこれだけ広く、インターネット空間という仮想空間まで拡張して。ネットを使えば世界各国にすぐにアクセスできる。クリックすれば翌日にはほしいものが自宅に届く。便利で世界の距離が縮まったように思える。ただ、これで生活が満ち足りたものかというとはなはだ疑問。守一さんは多くを求めない。必要最低限のものがあればいい。人にとってはちっぽけに見える小さなものの中に無限の世界を見ている。本物や本質だけが必要で。それがシンプルな絵に表れている気がする。自分にとってなにをもって“豊か”とするのか深く考えさせられました。例えば、身近なところで自分の子どものころは携帯電話とかなくても生活に支障はなかったよなとか考えて、ああいう生活に戻ってもいいなと思ったりしましたね。だからといってすぐにスマホを捨てることはできないんですけど(苦笑)」
『モリのいる場所』
5月19日(土)より全国公開
取材・文:水上賢治
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