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「この作品をうまく説明する言葉がまだ見つからない」。想田和弘監督、新作『港町』を語る

(2018/04/06更新)
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台本やナレーション、事前のリサーチやBGMなどを一切排した、自ら“観察映画”と呼ぶ手法でドキュメンタリー映画を作り続ける映画作家、想田和弘。『選挙』『精神』など、世界で高い評価を受ける作品を発表し続けてきた同監督の新作『港町』は、ドキュメンタリーの新たな領域に踏み込んだ1作といっていいかもしれない。“これまでのスタイルや手法からひとつ先に進めた気がする”と監督本人も手ごたえを口にする新作の真髄とは?


想田和弘監督

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「この作品をうまく説明する言葉がまだ見つからない」。想田和弘監督、新作『港町』を語る

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今回の『港町』の様相は、想田監督の一連の作品の中では『Peace』に近いかもしれない。ただ、作品の内実はかなり違う。こういっては失礼だが、作品にしようという意志さえ感じられないような、たまたま行った場所でたまたま出会った人をとりたてて目的もなくフリーハンドで切り取ったような感触を残す。「確かにそういわれるとそうかもしれない。『選挙』や『精神』のときは、重い石を持ち上げるように四苦八苦して作っていて、なにかしらの自分の意志が強く働いている。ところが『Peace』を作ったとき、思ったんですよ。“この作品はそうした自分の自我や作り手としてのへんな意欲が出ていない”と。ただ、『港町』と比べると、それでもいろいろとなにかをしてやろうとしている(笑)。確かに今回はなにか悟りの境地ではないですけど、ごくごく自然の流れの中から作品が生まれたというか。登場するワイちゃんもクミさんもばったり出会っただけ。彼らを主人公に1本の映画を作ろうと当初は微塵も思っていませんでした」

この作品のはじまりは前作『牡蠣工場』にさかのぼる。3週間のスケジュールで岡山県牛窓に入ったが撮影は順調に進み、予定より早く終了。このことが本作への布石となる。「残りは休暇にしようと思ったんですけど、まあ『牡蠣工場』で使う風景ショットが必要だろうと、カメラをもって牛窓をウロウロしていたんです。当然、具体的になにを撮るとかまったく決めていない。そんなほぼ散歩気分で目に留まったものを撮っていたら、ある日、漁師のワイちゃんがカメラに向かって“こんなの捕れた”とばかりにでかい魚を差し出してくれて、なんとなく話すことになった。すると、次の日また漁に行くというから、じゃあご一緒させてもらっていいですかと。クミさんにいたっては、港でワイちゃんを撮っていると勝手にフレームに乱入してきて、最終的には主人公のようになった。つまり僕が被写体を追いかけるというより、どちらかというと僕は被写体から追いかけられたんです。だから普通の撮影者と被写体という関係じゃないというか。いい具合に力が抜けた感じでカメラを回していたのは確かですね(笑)」

こうして収められた映像は一見すると、ドキュメンタリー映画としてはいささか強度のないように映るショットが並ぶ。瀬戸内の小さな小さな港町で生きてきた老齢の漁師、ワイちゃん、ちょっと毒舌だけど愛嬌満点のおばあちゃん、クミさんら地元の人々、この町に流れる時間、観光名所でもなんでもないこの地に当たり前に広がっている風景、地元民のたわいもないおしゃべり、何の変哲もない日常の営み、こうしたありふれた風景を収めたに過ぎない。ただ、あえてモノクロームとしたこれらの映像は神々しいぐらい美しい。その光景は幻想世界へと誘われるかのよう。ただ、このモノクロの選択も偶然の産物だった。「実は当初は全編カラー。もともとこの作品は色が重要と思っていて、カラコレにもこだわっていったん全部作業は終わらせたんです。でも、なんかしっくりこない。そのとき、パートナーの柏木が“モノクロにしてみれば”と。はじめは正直“何言ってんの”と思ったけど、気になり、とりあえずモノクロにしてみて本編を見始めた。最初の5分でやめるつもりだったのに、気づいたら全編みていた。“これだ!”と思った。それでモノクロでカラコレをやり直すに至ったんですけど、躊躇はありました。“常識的にこんなことやっていいのかな”と。色もまたドキュメンタリー映画において目の前にある情報であり、重要な要素。それを削ぎ落としてしまっていいのかなと。ドキュメンタリストとしてその姿勢はどうなのだろうと。ただ、それを言い出すと編集や構成といったあらゆる加工を否定しないといけない。それで色を落とす選択があってもいいんじゃないかと。でも、自分を納得するために1週間かかりました。当の柏木にモノクロを薦めた理由を聞くと“覚えてない”と言うんですけど(苦笑)」

このモノクロームの映像は、大概がその瞬間、その場限りの事実として存在するドキュメンタリーの映像に、永続を加えるとでもいおうか。この地でいきる人々、この地に刻まれてきた、これまでの時間、これからの時間も感じさせるような永遠性をもたせることになる。また、その映像の印象は、作品全体の内容までも変える。本作にあえてストーリーをつけるとすれば、ワイちゃんの捕った魚がどこの食卓へのぼるのか、その行く末を見届けるため、牛窓をまわってみた。それで終わってしまう。ただ、我々はそこにそれ以上の寓話ともいうべき不思議な物語を見い出すことになる。「まさにその通りで、自分でもそう思ったんです。モノクロにした途端、まったく違う風景になった。最初にモノクロで見た時の個人的な印象は、ヴィターリー・カネフスキー監督の『動くな、死ね、甦れ!』です。これはどこの国でいつの時代だろう?と。そして、ワイちゃんもクミさんの顔もモノクロがすごく似合う。小さな町で暮らす普通の人々の日常なんですけど、映画が違う次元にいっている。観る者は異界に迷い込んでしまった気分になる」

これまでとまったく違う様相になった本作を今はこう感じている。「観察映画の本道、根幹は変わっていない。ただ、今回はこれまでの映画作りの方法論や手法、スタイルを進化させられたというか。ひとつ先に進められた手ごたえがある。今回が8作目になりますけど、これだけやっていると自分の中にルーティーンがどうしてもできてくる。これを僕は敵だと思っている。こうすればこうなるといったように収まる回路が自分にできることを警戒している。ただ、警戒しててもどうしても出てくる。それをどう壊そうか常に考えている。その回路を今回は崩せた感触があって、表現の領域が広がった気がする。また、“ドキュメンタリー映画はこうあるべき”といった固定観念が自分にもあって、それにどこかとらわれているところがある。その殻を今回は破れた気がします。実は、『港町』はどういう映画かと聞かれても、それをうまく説明する自分の言葉をまだ見つけられないでいる。ただ、言葉でいい表せないものを、映像で表現できている自信はある。そういう意味では、きわめて映画らしい映画になったのではと思っています」

ドキュメンタリー映画というと、社会問題に警報を鳴らしたり、歴史の闇を掘り起こしたり、ひとりの人間の生涯に迫ったりといった作品がスタンダード。そこには、なにがしかのテーマや事実の上でのストーリー、決定的な瞬間の映像といったものが求められがちだ。『港町』は、そうしたドキュメンタリー映画と、ある意味で対極をいくのかもしれない。ただ、いい意味で変に意味やメッセージ性をもたせない、抽象的だけど普遍性もあるこんな映像記録があっていい。

『港町』
4月7日(土)よりシアター・イメージフォーラムほかにて全国順次公開

取材・文:水上賢治

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