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“天才”と呼ばれる男が抱え続けた想い。湯浅政明が語る新作『夜明け告げるルーのうた』

(2017/05/19更新)
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『ピンポン THE ANIMATION』『夜は短し歩けよ乙女』の湯浅政明監督の新作『夜明け告げるルーのうた』が本日から公開されている。湯浅監督作品は、観る者を圧倒するアニメーション表現と世界観が世界中で高く評価されているが、新作は監督が心の奥底に抱いていた想いが込められた作品に仕上がった。


『夜明け告げるルーのうた』を手がけた湯浅政明監督

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“天才”と呼ばれる男が抱え続けた想い。湯浅政明が語る新作『夜明け告げるルーのうた』
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湯浅監督は、1987年にアニメーションの世界に入り、『ちびまる子ちゃん』や『クレヨンしんちゃん』などの作品で活躍した後、劇場版『クレヨンしんちゃん』シリーズでは設定デザインなどを担当。2004年の初監督作『マインド・ゲーム』は世界中で熱狂的なファンをうみだした。その後も『ケモノヅメ』『四畳半神話大系』『ピンポン…』など数多くの監督作を発表しているが、自身は「今でも作品の宣伝以外で聞かれたら、自分は“アニメーター”だと答えています」という。

「最近は“監督”と呼ばれることが多くなりましたけど、基本的には自分はアニメーションをつくっている人たちのひとりだと思っています。近年でも『…しんちゃん』の仕事をしているのは、単純に楽しいからです(笑)。最初やってる時は、一生、この仕事でいいと思ったぐらい(笑)。でも、そうやって設定やアイデア出しも頼まれる中で、自分で考えたアニメーションを描きたくなったんです。だから最初は、描きたい画を描くために演出を始めて、だんだん演出だけになった中で、脚本とか構成とか、そもそも“なぜ、自分はアニメをつくるのか?”ってことを掘っていくようになりました」

立場が変わっても、描いた絵が動くアニメーションの魅力を追求する湯浅監督の姿勢はブレることがない。「アニメーションというものが、3DCGに押されたり、実写に追いつこうとして敵わないと思ったりすることもあったと思うんですけど、いつもアニメーションだからこその面白さ、描いたものが動く面白さを描きたいですし、実際に自分で描いた画でなくても、作品がそういうものになってほしいと思います」。湯浅作品では時に、現実では起こりえない方法で世界が拡張し、キャラクターが観る者の予想を裏切るモーションで動き、色彩や筆致が縦横無尽に変化する。最初のコマから最後のコマまで“何か”が起こっている。湯浅作品を一度でも観たことがある観客は、そう感じたのではないだろうか? 「絵は何かを表現して、伝えようとして描くものなんですね。だから、写真みたいに描くんじゃなくて、伝えようとしているものが、画面から伝わるようにしたいとはいつも思っているので、観てくれている人の印象に残っているんじゃないかと思います。“作品の本質”を伝えようと画面のすべてが動いている、それが良いと思っています」

だからこそ、湯浅監督は毎作、登場人物や物語だけでなく、作品を支える“本質”について深く考えてきた。「原作がある作品だと、小説だったり、漫画だったり、そもそも媒体が違うので“これをアニメに移し変えるってどういうことなんだろう?”ってところから考えるんです。例えば漫画だと白黒ですよね? それを読んで面白いと思っているのに、色をつけないとダメなのかな? って単純に思っちゃうんですよ(笑)。原作が面白いんだから、原作を読めばいいじゃん! わざわざアニメにするのはなんでだろう? って。だから、自分は基本的には原作リスペクトで作っていますし、『四畳半…』でも『ピンポン…』でも、小説や漫画とアニメは媒体は違うから、同じものを作るのは無理だけど、同じように感じてもらえるというか、僕の頭の中にはこんな感じで浮かんでいました、ということで作っています」

ところが本作は、『ケモノヅメ』『カイバ』と同様に、オリジナル作品だ。「原作がある場合は、最初にはっきりとしたテーマがあるんですけど、オリジナル作品の場合はこれまでは、最初からはっきりしたテーマがなくて、シリーズの途中で“この話はこういうテーマなんだろうな”とわかってきてラストまで行くって感じで、やっぱりテーマって大事だなって(笑)。なくてもアニメはできるけど、テーマがあったら展開が決まっていくなって。だから、テーマを明確に考えるようになりましたし、この映画は日ごろから思っていたことをテーマにしたので、そこに向かって映画をつくっていった感じです」

本作の舞台は、日無町(ひなしちょう)と呼ばれるさみしい漁港の町。そこで暮らす中学生のカイは、両親の離婚にも何も言えず、自分で作曲した音楽も匿名でネットにアップする“思っていることを表に出せない”少年だ。しかし、彼は同級生のバンドの練習に誘われ、そこで無邪気に歌い泳ぐ人魚の子どもルーに出会う。人魚は人々に“災い”をもたらすと言われ続けている町で、カイはルーと交流を続け、次第に閉ざしていた心を開いていく。

「最初は男の子と女の子の話で、子どもの頃にテレビで観ていたアニメみたいな“異質なものと出会い”を、映画でやれたら面白いだろうなと思ってやっていくうちに、人魚という設定になって、町の話も描きたいと思っていたので、それがリンクした時に、なかなか本当のことが言いづらかったり、思ってることを言うと文句が出たりするのがイヤだなって気持ちがテーマになっていきました」。映画の中で主人公のカイは、自分の思いを口にしたり、表に出すことで、それを否定されることを恐れている。しかし、人魚のルーに出会ったことでカイは変化し、自分が解放されるばかりか、相手を一方的に決めつけて否定する人々にも立ち向かっていく。

「出来上がった作品を観てやっと気づいたんですけど、カイくんに心を開いてほしい! とか言ってますけど、結局は自分の話で、僕は人に認めてほしいと思ってるんだなって(笑)。よく人から“アート的につくろうとしている”とか言われるんですけど、全然そんなことはなくて、みんなに近づきたいと思っているのに、それでも特種だって言われるので、“人に認めてほしい”という根源的な願いがあるんだろうなって。すごく恥ずかしいんですけど」。湯浅監督は、そう言って笑顔を見せるが「僕は人から認められたいから、他人のことを認めようとするし、全方位的に相手を理解したいと思う」と語る。「人を理解するのって、本当に難しいと思うんですね。すごく知っていると思っている人でも、こんなところあったっけ? って思うこともあるし、親しいはずなのに知らなかったことがあったりして、人を簡単に決めつけたらダメだなって思うんです。否定する人って、何かを決めつけるというか、ひとつの部分しか見てないっていうか。自分がいつも決めつけられることが多かったから、余計にそう思うのかもしれないですけど」

少年と人魚の出会いから始まる物語は、日無町の人々を巻き込み、大騒動に発展する。映画が終わる時、日無町の人々の、そこで暮らす少年カイの、そして観客の心は、どう変化するだろうか? 天才と呼ばれ、個性的な存在として高く評価されてきた湯浅監督の“想い”がこもった作品は再び、世界中のファンを魅了することになりそうだ。

『夜明け告げるルーのうた』
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