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“勝ち/負けが通用しない物語”を描く。大友啓史監督が語る『3月のライオン』

(2017/03/24更新)
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羽海野チカの人気コミックを実写映画化した『3月のライオン』の前編が公開されている。本作は、幼い頃に両親を亡くした17歳のプロ棋士・桐山零が、様々な棋士たちと切磋琢磨し、多くの人々に出会う中で成長していく様を描いた作品だが、監督を務めた大友啓史は本作を“勝ち/負けが通用しない物語”として描いたという。


大友啓史監督

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“勝ち/負けが通用しない物語”を描く。大友啓史監督が語る『3月のライオン』
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大友監督はこれまでに『るろうに剣心』や『ミュージアム』など数々の人気コミックを実写化してきたが、作品を過剰に“聖典”にすることなく、原作が描く世界やドラマ、人物を冷静に見つめ、深く掘り下げながら脚本を執筆し、観客が“この世界は本当に存在する”と思えるレベルになるまで準備を重ねている。

最初に羽海野チカのコミックを読み「素直に感動した」という大友監督は、映画化する上で主人公・桐山零の抱えている孤独や痛みを観客がしっかりと感じられるように脚本を手がけていったという。「まず最初は“現代の東京で本当にこんな温かい物語が在りうるんだろうか?”と考えるところからはじめたんです。実写としてつくっていく段階で、スタッフに言ったのは“ユートピアなんてものはこの世にはない”ということ。というのも、原作の設定を素直に捉えると、桐山零くんは17歳のプロ棋士で、リバーサイドにひとりで暮らしていて、年収700万円で、自由に自立して暮らしながら、ときどき川の向こうの可愛い女の子たちが住む家に行って美味しいものをごちそうになる……って、それだけ聞くとすごく恵まれた少年じゃないですか(笑)。で、何が不満なの? って思う人もいるかもしれないし、そうなると彼が抱えている孤独や痛みが観客の目線から抜け落ちていってしまう。だから、零くんがそう簡単に救われてはいけないと思いましたし、零くんと川本家が物語のどのタイミングで出会うのか、どのような出会いを作るのかが、僕の中では一番難しかったんです。だから、川本家もセットで撮影しないで実際の木造建築を探して、『川本家はユートピアでもファンタジーでもなく、家族が暮らしてきた歴史や生活の積み重ねの中での傷や痕跡が確かに残ってるよね』と確認しながら、リアルな着地点を見つけていった感じです」

大友監督は、これまでの監督作品と同じように本作でも登場人物の生い立ちや過去を徹底的に見つめて、物語を動かすカギにしている。「零くんは幼い頃に両親を失って、父親の親友に『君は将棋が好きか?』と聞かれて、生きるために嘘をついて内弟子という形でその人の家で過ごす中で、我慢をして、言いたいことも呑み込みながら成長したわけです。子どもが成長していく過程では、ボタンひとつ掛け間違えるだけで、イジメっこにもなれば、イジメられっこにもなる。だから、零くんも一歩間違えれば、別の道にいってもおかしくなかったわけだけど、彼には将棋の才能があったからプロの道に進んだ。でも、結果的に同じ家で暮らしていた香子と歩は隅に追いやられてしまう。だから彼にはいつも罪の意識があるし、これが『ミュージアム』だと暗黒面に振れていくんだけど(笑)、この映画では、零くんを無条件に受け入れてくれる川本家がいることで、明るい方に引っ張られて救われていくんですね」

一方で、大友監督はプロの道を進み、川本家に受け入れられて救われる桐山だけが“勝者”ではないという。「物語中では、桐山零だけが将棋という世界で一歩一歩確かな道を歩いているように見えるけれど、将棋をやめた香子だって、この後に新しい道を見つけるかもしれない。将棋の世界が面白いのは“勝ち組/負け組”という、単純な類型が通用しないことです。誰かが判定するわけではなくて、自分で“負けました”といった瞬間に対局が終わるわけで、それはまるで“人生”に近い。本当は勝っていたはずの側が、それを見逃がして自分で“負けました”と認めてしまったり。零くんは将棋でしか生きていけないから“負けました”となかなか言えなかった。ただそれだけかもしれない。本人の意思とは違った形で運命がまわっていく。そこが面白いことだし、“負けました”と言った人間たちにどんな道が待っているのかは、後編につながってます」

ちなみに、大友監督は最初にコミックを読んだ時「向田邦子さんのドラマを思い出した」という。「向田さんのドラマって、何十年も連れ添った夫婦が実はお互いのことを何もわかってなかったけど、一緒にいた時間の重みは消せないよねってことがドラマのベースで、そこに四季の移ろいや食卓の豊かさが重要な小道具として描かれてますよね? この映画もそうで、何かひとつの出来事があったから少年が大きく変わったかというとそうではなくて、いろんなことが積み重なっていって、小さな変化につながる。それはそれだけのことが起こった“時間”が積み重なっているわけです。だから、四季の豊かさ、食卓の豊かさ、時間の経過をどう感じさせるか。そういう変化を僕なりの方法で、物語のダイナミズムを含めて描いていきました。必ずしも勝敗を描いた映画ではないし、世の中に“勝ち組/負け組”と言う言葉があるとしたら、そこに真っ向からアンチテーゼを言いたい。将棋の世界で負けた者にも新しい道がひらかれるかもしれないし、零くんだって映画の大半の時間は悩み、苦しんでいるけど、どこかで祝福される時間が訪れる。だから、まさに“3月のライオン”ですよね。“3月はライオンのような激しさを伴ってやってきて、子羊のように穏やかな表情で去る”。2本の映画を通じて、その変化がしっかり伝わればと思っています」

『3月のライオン』
前編 公開中
後編 4月22日(土)全国ロードショー

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【チケット情報】
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