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こんな夢を見た

80点 2010/6/12 8:42 by 出木杉のびた

「こんな夢を見た」で始まる、8つの物語。
テーマは、自然に対する敬意だったり、そんな自然を破壊していく人間たちへの批判であったりする。

「日照り雨」
日が射しているのに、雨が降る。昔の人は、この現象を不思議に感じたことだろう。こんな日には狐の嫁入りがあり、彼らはそれを見られることを嫌がるという。しかし、見るなといわれれば、見たくなるのが、好奇心旺盛な少年である。

狐の嫁入りシーンの行列は、滑稽でもあり、その動きは不気味でもある。ゆっくりと歩きながら、急に動きを止めてじっとしている様子が、観ているものを不安な気持ちにさせる。狐のお面を被っているものだとばかり思っていたが、これは顔に直接メイクをしているらしい。

禁を犯して、狐の嫁入りを覗いてしまった少年は、手を触れてはいけない、自然界の領域にまで踏み込んできてしまった、人間たちの象徴か。少年に悪気はない。しかし、その罪悪感の無さこそ、人間の無知なる罪なのかも知れない。

虹のかかる花畑と、雨に煙っている山奥の風景。絵画のようなその光景は、美しさと怖さの両面を併せ持つ、大自然のイメージだ。

「桃畑」
少年の目には、一人のかわいい少女の姿が見えるが、姉やその友達には、その少女が見えない。今日は桃の節句。少女を追いかける少年の前に、巨大な雛壇が姿を現す。雛人形たちの踊りと、宙を舞う桃の花が美しい。

少年役の伊崎充則くんが、やたらうまい。

桃の切り株のショットが痛々しい。これもやはり自然破壊をした人間たちへの、批判である。

「雪あらし」
短い話の筈だが、とても長く感じられる一篇である。雪の中をノロノロと歩む4人の姿がじれったい。遭難しそうになっているのだから、やむを得ないのだが、それにしても撮り方がイライラしてくる。

雪女(原田美枝子)が現れるのだが、殺そうとしていたのか、助けようとしていたのか、判り難い。役者の顔は、凍傷に近いのか、真黒で、誰が誰だか判らない。雪女登場後、一人が寺尾聰だと、ようやく判別出来た。

この話以降、寺尾聰は、黒澤監督の分身として、全ての話の目撃者となる。

この雪あらしは、大自然の脅威を描いたものだという位置づけでいいのだろうか。

黒澤監督は、映画の前半三話を、キツネの嫁入り、桃の精、雪女、と日本の古くからの伝承を物語の軸にして、描いている。日本人がこれまで語り継いできた話が、いかに自然と密接であったかを、再確認しているようだ。この日本の心を大切にすることが、自然との共存だと言いたいのではないだろうか。

「トンネル」
かなり恐ろしくも、迫力ある一篇で、息を殺しながら見入ってしまった。トンネルとは、霊界との通路なのか。暗い闇の世界の恐怖は、人間に染みついて離れようとはしない。

牙をむいて吠えかかる犬、赤い照明とトンネル。不気味さを醸し出す要素は揃っている。そしてついに「私」の前に現れたものは…。

顔や手を真っ白にメイクしてあるので、夕暮れの暗さに、その白い部分だけが浮き上がって、更に怖い。この野口一等兵は頭師佳孝くんなのだが、言われても全然判らないようなメイクだ。

野口一等兵を説得する「私」に、生き残ってしまった上官の悲哀が滲み出る。

白眉はこの後、大挙して行進してくる兵士の群れだ。トンネルから響いてくる、大勢の軍靴の音に、恐怖する。しゃれこうべのような顔の大群に、一糸乱れぬ整然とした隊列。幽霊ながら、見事としか言いようがない。

戦争で死んでしまった哀しみと、生き残ってしまった苦しみ。黒澤監督のメッセージは、言うまでもない。

「鴉」
ゴッホの絵の中に、入り込んでしまう「私」。
黒澤監督の、絵画に対するオマージュか。ゴッホ役には、映画界の巨匠・マーティン・スコセッシ監督が演じているのが面白い。何か合ってる感じ。

「アルルのはね橋」から、ゴッホ絶筆の麦畑へ。

「なぜ、描かないんだね」と問いかけるゴッホと、「私には時間がないのだ」と自然を捕まえようと焦っているようなゴッホ。ゴッホへの憧れと、黒澤監督自身の、老いへの焦りが感じられる。黒澤監督はこの映画公開当時、80歳。まだまだ映画で描きたいことがあるのに、これまで思うようなペースで撮れなかったことへの無念が、心のどこかにあったのではなかろうか。

「赤富士」と「鬼哭」は、苦手な作品だ。
原発の脅威と、滅びゆく人類を描いているのだが、内容が暗いせいか、その描写も見ていて辛いものがある。「いきものの記録」を思い起こしそうな、その思いつめ方が、観客を不安にさせる。不快感さえ感じてしまう。黒澤監督は、未来に希望が持てなかったのだろうか。

「水車のある村」
この前二篇が暗かったので、ラストのこの明るさが救いになる。黒澤監督は、わざとラスト前で落ち込ませ、ここで一気に元気回復といきたかったのだろう。

葬式の話だが、とにかく明るい。笠智衆が相変わらず自然体で、とても良い。

「長生きして、ご苦労さんと言われて死ぬのはめでたい」「生きるっていいもんだよ」と語るこの老人を見ると、人生捨てたものではない、と思えてくる。

たった一度の人生。こうして肯定的に生きられるのは幸せだ。戦死もせず、原爆の脅威もなく、天寿を全うすることが、どれほど楽しいことなのか。この村の老人は教えてくれる。


何よりここでは、自然と人間が共存している、美しい日本の風景がある。清い水が流れている。
大自然と生きてこそ、本来の人間の幸せがあるのだという、黒澤を監督からのメッセージだ。

 

4人がこのレビューに共感したと評価しています。
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  • 今日悪夢を見て、夢の中でわんわん泣いてました。(>_<)

    2010/6/13 9:46 by 奈菜

    のびたさん、おはようございます。
    のびたさんのレビュー、いつも読んでますよん。いつも夢寝さんに先を越された〜!(笑)ってなってて、なんとなく入り辛くなってただけです。^^;おふたりの間に入ったりしたら、ご迷惑じゃないですかぁ。

    ところで、わたしも黒澤作品、去年からマイペースで鑑賞していますよ。のびたさんにも読んでもらえてるといいなぁって思ってました。
    しゅうやさんやHALUさんも黒澤作品、今、鑑賞してて、お話してて楽しいですよ。

    ところで、「夢」。
    黒澤カラー映画で、わたしが一番観たいなあと思ってる作品なんです。三船敏郎出演作も、残すところ「赤ひげ」で全作鑑賞になるんで、次はカラーに行こうかなって思ってます。

    のびたさんのレビュー、楽しく読まさせてもらいました。お邪魔しました。o(^-^)o

  • 最近、夢を見ません

    2010/6/13 17:23 by 出木杉のびた

    奈菜さん、こんにちは。

    僕も奈菜さんの黒澤シリーズは、拝読させていただいております。でも、僕は無精な上に、人見知りするものですから、なかなかお話には入れません(汗)。

    夢寝由来さんの豊富な知識のおかげで、僕のレビューが充実してます(笑)。しかしそれ以上のネタがお返し出来ないので、心苦しく思っております。

    もうすぐ全30作、終了しますので、そうなったら、いよいよ本当の黒澤ベストテンの発表です。

  • わたしは数年前、「夢日記」つけてました♪

    2010/6/14 20:18 by 奈菜

    のびたさん、こんばんは。

    >僕も奈菜さんの黒澤シリーズは、拝読させていただいております。

    わ〜、映画生活の重鎮、のびた教授に読んでもらってるとは、うれしいです。^^

    >僕は無精な上に、人見知りするものですから、なかなかお話には入れません(汗)。

    そうでしたか…。わたしも人見知りです♪猫だけに警戒心が強いかも、です。のびたさんの気が向かれたときには、どうぞ気楽に話に入ってくださいませ。

    >もうすぐ全30作、終了しますので、そうなったら、いよいよ本当の黒澤ベストテンの発表です。

    それは楽しみです。やっぱり一位は「七人の侍」でしょうか…。わくわく。

    でわ。お邪魔しました。(^-^)/

  • 僕も夢をメモった

    2010/6/14 23:58 by 出木杉のびた

    奈菜さん、こんばんは。

    僕も一時期、夢をメモしていたことがあります。
    自分で勝手に解釈して、楽しんでおりました。

    黒澤監督のこの映画も、子供の時見た夢とかを元に映画化したようですね。

    > それは楽しみです。やっぱり一位は「七人の侍」でしょうか…。わくわく。

    一位は、「七人の侍」は敢えて、外そうと思っています。

    それから僕は猫も犬も好きです。
    ちなみに僕のアバターは、ハムスターですが、食べないで下さいね。

  • 夢分析は奥深いですね♪

    2010/6/15 20:55 by 奈菜

    のびたさん、こんばんは。

    のびたさんも夢をメモってたときがあったのですね〜。「夢は無意識への王道」なんてことを、かの鬼才が言ったとか言わないとか。
    夢って、おもしろいですよね♪

    >黒澤監督のこの映画も、子供の時見た夢とかを元に映画化したようですね。

    みたいですね〜。ああ、早くこの映画鑑賞したいです。でもその前に「赤ひげ」がまだ鑑賞できてないからお預け状態。ジレンマです。(>_<)

    >僕のアバターは、ハムスターですが、食べないで下さいね。

    爆笑!!
    はい。おびき寄せられて、チョイチョイとじゃれる程度にしておきます。(^-^)v

  • 夢は天才だ

    2010/6/15 22:22 by 出木杉のびた

    奈菜さん、こんばんは。

    「夢の表現というのは実に技巧を使っているんだよね。表現の仕方が強烈なわけ。あれは何だろうって言ってるんだよ。夢は実にうまい表現をするでしょ。だから夢を見てる時は人間みんな天才なんだよね。それをつかまえてみようと思ったんだ。そういう点で一つ勉強してやろうかなと思ってね」
    (家庭画報・1991年四月号より。黒澤明)

    今回完全パクリでした。

  • 文献検索、さすがです♪

    2010/6/16 21:38 by 奈菜

    のびたさん、こんばんは。^^

    文献からの引用、興味深く読ませてもらいました。夢はほんっと、おもしろいです。

    では、わたしもつられてひとつ。

    「さっそく自分の見た夢を書いた。面白いので次々に書いた。たちまち十一もの夢を書き留めた」(コンテ画集『夢』岩波書店)

    こうして黒澤監督の書き留めた11の夢のうち、8こが本作で映像化されたようですね。

    情報、ありがとうございました。(^-^)/

  • 夢日記は三日坊主がよい

    2010/6/17 23:07 by うなぎいぬ

    のびたさん、奈菜さん、横からお邪魔します。

    夢日記は私もつけたことがありますが、これってやりすぎるとちょっと危ないそうですね。ネタに詰まった漫画家が夢日記に頼るうちにおかしくなった、なんて噂をよく聞きます。
    夢の作品化といえば真っ先に思い出すのが、つげ義春の「ねじ式」ですが、彼も後に精神を病んでたことがある。
    筒井康隆は夢探偵の話「パプリカ」(これは原作もアニメもなかなか面白かった)を書くために夢日記をつけつづけたところ、ある晩、死ぬほど恐ろしい夢を見て、眼が覚めたら髪が真っ白になっていたとか。
    そんな作品にある、夢の不条理なおかしさがあまり感じられないのが「夢」の残念なところ。
    なんだか立派な人は見る夢も立派なんだなあ、と畏れ入った次第です。もちろん、見た夢をそのまま映画にはできないでしょうけど。

    未映画化エピソードのうち「飛ぶ」は大林宣彦監督がたしかNECのCMで黒澤監督の絵コンテをそのままアニメートする形で映像化していました(ただし、私はTVでなく映画館で観たと思う)
    その後、黒澤ファンには悪名高い(笑)樋口真嗣監督がフルデジタルのアニメーション化にチャレンジしてます。エヴァンゲリオンなどにかかわった人らしく、こちらはだいぶ今風な仕上がりのようです。


    <リンクURL>

    「飛ぶ夢をしばらくみない」なんて小説(及びその映画化)があるくらいですから、これは割りとポピュラーな夢でしょうね。私がたまに見るのは、飛ぶ、というより跳ぶ、というかんじの夢で手塚治虫の傑作短編アニメ「ジャンピング」の方がイメージが近いかな。

    さて、今夜もよい夢が見れますように…

満足度データ

夢〈1990年〉
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採点者数
84人
レビュー者数
20
満足度平均
67
レビュー者満足度平均
72
ファン
6人
観たい人
39人

 

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