美への奉仕
2009/6/13 16:14
by
星空のマリオネット
北野武の映画を観たのは数年ぶり。
久しく観ていなかったのです。
どうしてかなあ・・・?
映画の世界の外からやってきた、凄い映画監督兼役者。
他のジャンルで成功した映画好きな著名人たちのチャレンジのほとんどが失敗に終わった中で、ビートたけしは傑出した存在。
他に成功したのは、役者出身の故・伊丹十三さんくらいかもしれません。
二人とも、破天荒とも言える、強烈な独創性・エネルギー・リーダーシップを持った職人。
☆ ☆ ☆
美と暴力と沈黙と・・・
彼の頭に浮かんだ架空の世界(想念)を、彼が創り上げた表現方法でクールに描いていく。
言葉によるコミュニケーションを必要最小限にまでそぎ落とす。
一つのシーンを見せるだけで、寡黙な男の心情を語らせる。
仲間を失い、子供を失い、妻を失おうとしている孤独な男の心情。
置き去りにされた小さな子供の靴
お土産のショートケーキ
妻との子供同士のような些細なやりとり
サイレンの可笑しな響き
無造作に包まれた現金の宅急便
贈られた絵の具セットにベレー帽
一方で、発作的に訪れる容赦のない激しい暴力。
自分を捨ててしまった者の無軌道な暴力。
法の番人であったはずの刑事が、法の外、自分の論理だけで突き進む。
数々の鮮血の紅を残して。
劇中たびたび挿入される彼自身の描いた絵画に目も眩む。
鮮やかな原色で彩られ、奇妙に単純化された造形に惹きこまれる。
キタノブルーを背景に、「死」を暗示するような異様に美しい「生」が輝く。
時に、照れたようなユーモアに慰められながら、
暴力も沈黙も死も、北野監督の映像「美」に奉仕させられているような作品です。
PS
久石譲の音楽が重厚に美しく流れ、この映画に格調高さを与えています。
ただ、自分の作品だからやむを得ないことかもしれませんが、『風の谷のナウシカ』や『となりのトトロ』をちょっと思い起こさせたりします。
4人がこのレビューに共感したと評価しています。
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ひまわりライオン
2009/6/13 19:54 by
のびた
星空のマリオネットさん、こんばんは。
何せ僕のレビューは、10年前に書いた感想なので、今回レスさせていただくあたって、記憶違いがあったらご指摘ください。
> 劇中たびたび挿入される彼自身の描いた絵画に目も眩む。
> 鮮やかな原色で彩られ、奇妙に単純化された造形に惹きこまれる。
> キタノブルーを背景に、「死」を暗示するような異様に美しい「生」が輝く。
北野監督は自殺ではなかったかと噂される、自分の事故の後、リハビリに絵を書いたと聞きました。その死を乗り越えて再生に向かおうとするのが、北野監督にとっての絵を描くという作業だったように思います。それがこの映画に使われていることが、テーマ的にも興味深いですね。映画の中でこの絵を描いているのが、半身不随の堀部ですから。西と堀部は、向おうとしている方向性が正反対だと思いました。
この映画で登場する絵の中に、顔がひまわりのライオンとか、顔が花の花嫁とか、動物の一部分を植物にすげ変えているものがたくさんあったと思います。深読みしようと思えばできますが、北野監督からは、単なるお遊びだよと言われそうです。でも、絵っていうのは、その人の心理状態を表しているとも言われますので、やはり気になってしまいます。
> PS
> 久石譲の音楽が重厚に美しく流れ、この映画に格調高さを与えています。
> ただ、自分の作品だからやむを得ないことかもしれませんが、『風の谷のナウシカ』や『となりのトトロ』をちょっと思い起こさせたりします。
久石の音楽は、いつも素晴らしいです。始めて聴く曲でも、その曲を聴いただけで、久石と分かるようなメロディが一般にも定着しているのでしょうね。どうしても過去作品とイメージは重なってしまいますね。 -
Re: 美への奉仕
2009/6/13 23:08 by
星空のマリオネット
のびたさん、レスありがとうございます!
愛する家族から見放され絶望の淵にあった堀部(大杉漣)の再生を願い、絵具を贈った西(ビートたけし)。
堀部が描いたのは、動物の頭が花に化けている半魚人ならぬ半花獣のような姿です。その花の顔は別れた娘のように笑っています。また、妻が不治の病で入院している病院の壁にかかっているのが、現実世界とは思えない天然色の明るい絵。
自分たちが置かれている世界と正反対の輝くばかりの別世界。生の輝きともとれますが、この世のものならぬ死後の世界=天国が手招きしているようにも見えました。
失われたもの(絶望)の大きさを際立させるような奇妙に美しい絵。
北野監督の絵は強烈です。
そして、映画を挟むようにして登場する天使の絵。極彩色の美しい絵ですが、終幕では涙を流しているように見えるのです。(この場面の音楽が『風の谷のナウシカ』の壁画のシーンの音楽を連想させます。)
北野監督の意図がどうだったのかわかりません。のびたさんの言われるとおりかもしれませんね。素晴らしい映画は、いろいろな感じ方ができる不可思議さを持っているように思います。
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