京都セラミックや、京セラや!
2008/2/11 8:31
by
黄水仙
題名にある「子猫」は、冒頭に出てきて拾われて、お母ちゃんの出奔の日に唐突に死んでしまう。その猫、一体、何を表現しているのかは不明。主人公の女の子でもないし、野良猫とその子に呼ばれた広末涼子でもない。そもそも猫自体、大して出番はない。だからその「涙」にいたっては皆目わからん。
で、物語は実在のメキシコオリンピック銅メダリスト・森岡栄治の引退その後で、娘の目から見たどうしようもなくしょうもないお父ちゃんの話。お母ちゃんスナックで働かしておいて、自分は仕事もせんと毎晩飲み歩いて浮気する。美人を見れば、娘の担任であろうが、パイプカットした医者であろうが、声をかける。そのだらしなさやだめさ加減をしかし徹底的に書かずにいる。そもそも森岡栄治を演じる武田真治は映像的にはイケメンで基本的にかっこいい。そして、彼は子供に対して徹底的に優しくかっこいい。最後の最後、株偽造容疑で捕まったときの事情聴取でも、警官を一発でノックアウトしてしまうような、映像的にその場その場でのかっこよさが散りばめられている。
だめ男は徹底的にだめ男で書けば、その中から別のものが見えてくるはず。どなたかも指摘されていたとおり、脚本監督の森岡利行は甥だそうで、なまじ愛着のある栄治を冷静に見ることができていない。人はさらけ出された生身の人間に感動を覚えるのであって、その時々のかっこよさに惹かれるわけではない。
大きな建物は通天閣だけみせて、あとは大阪の路地裏を丁寧に拾ってワンシーンワンシーン見せている。ボロボロの自転車の止めてある軒先には雑然としてはいるが愛情込めて丹精しているだろう植木鉢、そんなのがたくさんおいてある裏道。そのシーンだけでもそこに住む人たちの生活がにおって来る。これはこの映画のよいところだ、と思っていたら、この路地裏は東京近郊で撮影したものだと、知り合いが指摘していて驚いた。これはすごい。その雰囲気を映像にしっかり写し取っているのは技術だ。撮影や美術の裏方さんがちゃんと仕事をしている。
夢路いとし・喜味こいしの喜味こいしが、おじいさん役で出ている。髯面で、娘が訪ねるといつも千円札(髯面伊藤博文の旧札)のアイロンがけをしている。なかなかよい。動いているシーンが多いが、ここだけはいつも止まっている。時間さえも止まっているかのような演出がされている。
山崎邦正の栄治の兄役が結構いけている。常に自分中心で自分のために怒ったり泣いたり叫んだり頼んだりしている。栄治だってそうなんだろう。ボクシングがあったかなかったか、それだけの違いだったのだろう、この兄弟はって思わせる。最後の落ちるところもいい。
栄治の姉役の鈴木砂羽は、相変わらずいい。どの映画に出ていても颯爽としていて凛としていて、背筋が伸びている。存在感は申し分なし。『サイドカーに犬』でもそうだった。『オリヲン座からの招待状』でもそうだった。独身で飲み屋の女将。いいなあ、あんな飲み屋、ねえかなあ。
ということで、本チャンの栄治よりも、その周りが面白かった映画でした。
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