おい、女が誘ってんだぞ!
2008/2/11 8:18
by
黄水仙
1948年の建国以来、イスラエルは、いわゆる「パレスチナ問題」をかかえ、アラブの周辺諸国と4回にわたる戦争(中東戦争)と繰り広げてきた。1979年にエジプトと平和条約がなったイスラエルには、ひと時の平和が訪れる。この映画は、その束の間の平穏を囲っているイスラエルに作られた「アラブ文化センター」の開所式に招かれたエジプトの警察音楽隊が、アルファベット一時違いでかの地とは全く別の地に降り立つ、つまりは「迷子」になるところから始まる。
さて、基本的にエジプトとイスラエルは敵国同士なんだから、さぞかし緊張感あふれる映画なのだろうと想像している頭でっかちのわたしは、映画のプログラムをみてのけぞった。なんと、イスラエルに住むユダヤ人の2割はアラブ系なのだそうだ!建国当初はヨーロッパ系ユダヤ人(アインシュタイン、スピルバーク、ダスティン・ホフマンなどなど)の立国を予想していた大半の人々の思惑は、建国後のアラブ系ユダヤ人の大量移住で全く外れてしまったようで、そして事実このイスラエル映画のエジプト人警察音楽隊の面々は、皆イスラエルのアラブ系ユダヤ人俳優なのである。主人公の隊長などは、イスラエルでは知らないもののない、アラブ系ユダヤ人の大俳優だそうな。しかし、アラブ系ユダヤ人は冷遇されている。イスラエルでは「アラブの人」といわれ、二流市民扱い。アラブに出れば、「ユダヤ人」ということで白い目で見られるそうだ。うむ。
映画でも語られるが、イスラエルでの娯楽は、まだチャンネルがひとつしかないテレビで毎週金曜日に放送されるエジプト映画であったようだし、その映画にあこがれていた一膳飯屋の女主人は、だからこそあのエジプト人たちにひと肌脱ぐのであろうと思われるし、隊長に好意を寄せるのだろう。う〜ん、歴史は表面づらだけではわからない。庶民はどんな生活をしているのか、そんなことが意外に丁寧につづられているこの映画は、そういう意味でも興味深く面白い。
女主人と隊長のぎこちないデートも一興だし、若い隊員の初心な青年への恋の手ほどきも、ただの具体的な手ほどきではなく、パントマイムを見るような一連の演出は楽しい。
全編を通して互いにぎこちない訛り丸出しの英語を使っているのもおもしろい。設定がそうであるからとはいえ、自分の気持ちがさらさらと通じるはずの母国語が禁じ手になるが故のもどかしさと、だからこそ通じさせようと考えながら確かめながら話す英語の、あるときは見当違いな、あるときはは言い過ぎた、互いに第二外国語を使いながらの微妙なコミュニケーションが、映画に緊張を孕ませる。
しかしこの音楽隊、意外と言っていいほど、音楽はコミュニケーションとして使わない。楽器に関しては唯一、クラリネットを吹く、隊長ともう20年来音楽隊をやっている副隊長格の男のうまくはない演奏だけだ。しかもその自作の曲は明るくなく、そして未完成。泊まった家の若い主人はもう一年失業しており、一歳にもなっていない小さな赤ん坊の寝顔を見ながらぼーっとしている。壁にかかる新婚の新婦を抱きかかえる写真。彼は、その未完成の曲の最後をその子供の寝ている部屋のような静けさで突然終わればなんて、提案したりする。音楽とは反対の静寂。いや、意外に表裏なのかもしれない。
でも、どうにかなる。そして、朝になり、警察音楽隊は正しい地に降り立つ。そしていつものように、正しく演奏をするのだ。
ここでの評価があまりに低いことに少し吃驚したが、それはそれでよし。わたしは、ある種の共感と驚きと自分の無知さ加減へのあきれ(軽い自己嫌悪)を覚えた。百聞は一見如かずといった使い古されたことわざを引っ張り出すまでもなく、まずはご覧いただければと思う。そして、いろいろと考えよう。
4人がこのレビューに共感したと評価しています。
※ユーザー登録すると、レビューを評価できるようになります。
返信を投稿
Copyright©2012 PIA Corporation. All rights reserved.


![DVD「迷子の警察音楽隊 [DVD]」](http://ecx.images-amazon.com/images/I/51BJVZPDKXL._SL75_.jpg)











