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理念より具体的な描写を!

40点 2018/7/6 23:59 by odyss

焼肉ドラゴン

真木よう子と桜庭ななみが目当てで映画館に足を運びました。
このふたりは(特に真木よう子さんは)健闘していましたが、それ以外の点では残念な出来でした。

関西に暮らす在日朝鮮人の一家とその周辺を描いている作品ですが、制作側は在日に関する基本的な事柄をきちんとリサーチせずに作っているようですね。

この映画に私が期待したのは、この映画が描いている時代、つまり1970年前後の在日の具体的な暮らし方や思考法をしっかりと映像化することです。

ところが、実際にはこの映画は理念や観念的な発言ばかりを在日の人たちにさせていて、いかにも空疎なのです。

例えば、ラストで在日の中年夫婦はそれまで住んでいた在日たちの住宅地から追い払われるわけですが、ではその後彼らはどこに行くのでしょうか? 行き先を全然考えないで移住するわけはないのに、この映画を見ていてもその辺のことがまるで分からない。在日の中年男がきわめて空疎で観念的な発言をするだけ。これってナイよな、と思いました。

中年夫婦の三人の娘にしても、ラストでそれぞれに結婚相手を見つけて、長女は北朝鮮、次女は韓国に渡り、三女は日本人と結婚して日本に残るという結末になるのですが、これは在日の身の振り方をきわめて「平等主義的」に、つまり、可能性として考えられる居住地三カ所を平等に提示してみましたというだけで、今からするとまったく説得力に乏しいと言うしかありません。

まず、長女(真木よう子)は結婚相手(大泉洋)に同伴して北朝鮮に渡ろうとしている。しかしなぜ彼女の結婚相手が北朝鮮に渡ろうとしているか、分からない。
いわゆる北朝鮮帰国事業は1959年に始まりました。当時は北朝鮮の実情が日本ではほとんど知られていなかったからです。また当時の韓国は今と違って経済的には未発達だったので、日本にいる同胞を受け入れることには消極的でした。こういう中で在日が北朝鮮に「帰国」する事業が開始されたわけですが、最初の2年間(1959年、60年)こそ数万単位の在日が北朝鮮に渡ったものの、その後は北朝鮮に渡った在日からの情報で「北朝鮮はやばい」ということが分かってきたために、北朝鮮に「帰国」する在日は激減しました。つまり、在日にはそういう情報(北朝鮮はやばい)が流通していたはずなのです。なのに、大泉洋はそのことを知らない。変じゃないですが。

この映画でも一応、この家族の店に出入りしている在日がそういう情報を提示していますが、在日ならこの手の情報はとうに入手しているはず。それでも北朝鮮に渡ろうと思う在日は、イデオロギー的な理由を持っていたと考えざるを得ない。つまり、共産主義にシンパシーを感じていたから北朝鮮に渡ろうと思う、ということです。実際、1970年前後は日本では反体制の嵐が吹き荒れていた頃で、また今と違って北朝鮮に関する情報は在日はともかく、一般にはほとんど流通していなかったので、北朝鮮を地上の楽園と勘違いする人間もそれなりにいたわけです。日本の極左学生集団が飛行機を乗っ取って北朝鮮に渡った事件(よど号ハイジャック事件)が起こったのは 1970年のこと。つまり、日本ではその頃はまだ北朝鮮は楽園だと信じている人間がそれなりにいたわけです・

しかし、この映画では大泉洋が北朝鮮に渡航したいという理由がまるで分からない。彼は大卒だということになっていますが、それが日本の大学なのか、朝鮮大学校なのかは不明のままです。後者なら北朝鮮を理想郷と思い込むのも理解できますが、映画の中では大泉洋はその種のイデオロギー的な発言をまるでしていない。朝鮮大学校卒業なら、金日成を崇拝するとか、いかにもそれらしい発言をしてもおかしくないはずですが、この映画での大泉洋は真木よう子をひたすら愛しているというだけで、それ以外のことはまるで分からない。つまり、いかにも現代的な風味の在日であり、1970年前後という時代を反映していない、ということです。

次女(井上真央)の結婚相手は韓国に渡ろうとしているわけですが、これについても同じことが言えます。当時、韓国は日本のマスコミから手ひどく叩かれていました。当時の韓国は軍人出身の朴正熙大統領の時代で、日本や米国から「独裁国家」として非難されることが多かったのです。北朝鮮については何も言われなかったのに、です。つまり、日米のマスコミは分かっていなかった、ということですね。

この映画では次女の結婚相手は韓国出身で在日ではない(純粋な韓国人)ということになっていますが、しかしそれにしてもまだ経済的には未発達だった韓国でどういう仕事をしようしているのか、この映画はまったく触れていません。嫁さんを食わしていけるだけの仕事の当てがあるのか、その辺を提示するのがこの時代にあっては最低限の男の義務だと思いますけど、それすらしていない。つまり、説得力ゼロだということです。おまけにこの男は日本では仕事でドジを踏んでいて、その辺で有能な男かどうか疑問があるのに。

以上は家族内の問題ですが、もっと大きな枠で見るなら、この映画で描かれている在日家族がきわめて小さな人間関係をしか持っていないことが根本的におかしいと思うのです。

日本の在日に限りませんけど、ある国の内部にあってマイナーな民族は、民族内部での情報やコネを最大限に活かすものです。この映画なら、在日が集まって暮らしているわけだから、他の在日家族からの情報やコネで決まる部分も多いはず。例えば大泉洋は大卒なのに就職が決まらないという設定ですけど、在日のコネで決まらないのはなぜなのか分からない。この映画では在日は貧民ばかりということになっていますが、実際には日本のパチンコ産業は多くが在日によって担われています。つまり、お金持ちの在日だってそれなりにいたということ。むろん貧しい在日のほうが多かったでしょうけれど、在日のコネでそういう産業に雇ってもらうことだって可能だったはず。ところがこの映画ではそういう情報やコネがきわめて希薄なんですよね。これは、在日の存在を描くに当たっては根本的な欠陥だと思います。作る側が在日の実態を分かっていない、ということですから。

在日に限りません。貧しい人々は日々の暮らしに追われているから、美しい理念よりは食っていくための現実を重視するもの。この映画は、しかしそういう基本を押さえていない。残念なことだと言わなくてはなりません。

 

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