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愛の鹿気
2018/4/26 21:25
by
くりふ
キネ旬シアターにて。期待は下回ったがいい映画でした。作者が結論に導くのでなく、用意した二極の間に観客を置き、そこでの振幅を好きに受け取ってね…という仕掛けを感じます。丸投げなのではなく余白が多いという映画。不満はこの構造からのジャンプ力不足。あと、通俗に墜ちかかる所を意外と多く感じたこと。ちょち堅苦しい。
はじめ、鹿が演技しとる!ように見えてびっくりした。当然、そう見えるよう演出しているだけだが、ノンCGでしっかり鹿が擬人化されている。この鹿気いや仕掛けが後から効いてくる。と、鹿の鼻息を妙にセクシャルに感じたら…なるほど終盤あの“息づかい”に向けた伏線だったのかと。
鹿の映像に始まり、映像・フレーミングが端正で真っ当に美しい。これは劇場で堪能する価値おおあり。撮影監督は“撮影界のノーベル賞”カメリメージというのを獲ったそうだ。鹿の疾走にぴったり並走する滑らかさも見事だったが、今こういう視点はドローン撮影かな?
男の不自由な腕や女の精神的問題を、ことさら障碍扱いしないところがいい。心と身体のコントロールの難しさを、より際立たせるための仕掛けだと思う。これが巧くて、この中心たる心・身体という二極、その間の深い河について、とても興味深く振り返ることができました。
ヒロイン、アレクサンドラ・ボルベーイの“身体力”が美しく極まってゆくのが大きな魅力だが、それに圧され、老いた男の萎びた身体が画面から消えてゆく。この儚さが、また味わい。女性監督としての視線を感じます。男性監督ならもっと、男の身体もきちんと追って、ハッキリ描いたと思う。
食肉処理場という舞台を、ひとつの意味づけに絞っていないのもよかった。鹿、牛、人間、男と女、観客は自分の心の舞台上に、映画から転写されたそれらをどう置くのか置かれるか、どう動かすのか、動いてしまうのか? …遊べますね。ちょっと硬質だが、想像力に働きかける映画だと思います。
さて、あの森は、あの後どうなってゆくのだろう?
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