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多言語を操り、行動の羅列。不可思議な恋愛映画。

70点 2018/5/23 23:18 by 睡蓮

君の名前で僕を呼んで

面白かった。
素直だった。
物語の骨格が弱いので、その観点で見ると残念。
それ以外の耽美な世界観で見ると、良作。

【バカンス疑似体験映画として】
映像もきれいで、イタリアの田舎町でのんびりと水浴びをしながら夏を過ごす姿が良かった。
とても良いバカンスに来たかのような美しく理想的な日々。
この類の青春映画の中では、抜群に出来が良いと思う。
主役の家庭は裕福で、知的レベルが非常に高い。
イタリア古典美術の教授の家だ。
レモンの木などの果樹園のような庭があり、
朝食は屋外のテーブルで皆で食べる。
自転車で気軽に移動し、
自転車で転ぶと管理してくれるおじいさんが、直しておいてくれる。
気が向くと泳ぎに行き、疲れると草むらで横たわる。

【冷静しきりに物語の筋立てを追う監督目線】
主役の性質が前面に出ていて、周囲のいやらしさが全くなかった。
30過ぎの成人が10代20代を見るような臭いが全くない。
おかしな恣意的な窮屈さもないし、
異常性もない。
リブ・タイラーの『魅せられて』に似ているテーマだ。
今回は主役が男だから、変な方向に行かないで済んでいる。
監督が冷静に物語だけに集中しているのが救いだ。
逆に言うと、行動が事実の羅列に終わっているのが残念。
主人公の妖艶さは一切見えなく感じた。
描かれていないように感じた。
恋愛映画なのに。
そういう意味では秀作なのだ。
主役の万能性が、作品のアクを帳消しにしているところがすごい。
主演のティモシー・シャラメ、適任だった。

【近視眼的な構図】
今回、物語として近視眼的な世界観ということも関係があるだろうが、
非常に構図が寄りすぎだ。
冷静さを欠いた、どこか思いつめたような画面なのだ。
女性監督らしい、美しいものしか映さないという決定事項を徹底している印象。
そこが耽美で素晴らしいのだが、
全ての構図が少しどこかおかしい。
批判的な意味ではなく、内向的な映像なのだ。
ジョージア・オキーフの画面いっぱいの花のように、
背景というものが実はない。
映り込むものは、全て被写体であり、美しい。
そして背景に属するものはないように感じるのだった。
芸術とはただ美しいだけでも、それは良いのだろうか。

【行動や心情の理由は一切不明】
ただ、行動の羅列がテンポよく進む。
どうしてこうなったのかよく考えると深みが全くないのが惜しい。
人間として惹かれ合うには、それなりの事情や理由があるはず。
「優秀で物知りな二人」というだけで、
恋愛映画が成立するのかと考えると、
あまりに軽薄で、げんなりもする。
一番肝心な屋台骨が軟骨だったかのようで、がっかりする。

【理想的な北イタリアの夏の生活】
イタリアの田舎町で自転車を飛ばしながら、
庭の果実を齧りながら、
本当に理想的な過ごし方だ。
ギターを弾き、ピアノを弾き、バッハについて語り、
楽譜を読み、編曲する。
一見万能で、でも実際どうなんだろう。
絵のような世界だとは思う。
イタリアの庭の景色は美しかった。

【多言語】
多言語を理解できる人間の、万能性と苦悩もかすかに漂う。
あらゆる事を同時に処理できることが、
仄かに苦渋を滲ませている。
主人公はイタリアの避暑地で夏を過ごし、
フランス語で家族と話し、英語で客人に挨拶する。
イタリア語とフランス語と、英語。
くるくる言語が変わる。
英語は少しイタリア語訛りで、仕草もコミカルだが、
イタリア人のように多弁ではない。
母親はドイツ語が出来るので、
16世紀のフランスの物語のドイツ語の本を
同時翻訳で英語にしながら読み聞かせてくれる。
この映画のアクのなさ、は全て登場人物が
全員努力家だということが全ての原因のような気がする。
恋愛映画というのは、どこか臭うものなのだが、
そのくさみがない。そこが驚異的だ。
この映画は『イヴォンヌの香り』にも似ているが、その面が全然違うのだ。
そしてそれが作品の質を完全に左右している。

【多国籍な社交】
北イタリアの避暑地で、
英語しか話せないアメリカ人を迎え、
フランス語しか話せないフランス人の彼女と会話し、
早口なイタリア人と近所づきあいのランチをこなし、
母親がドイツ語の本を英語に訳しながら読み聞かせる。
家族だけの時は、英語がメインで、フランス語もたまに使う。
目まぐるしくて、面白いと思った。

【言葉は道路標識】
多言語故に、言葉数は少なくなる。
全体的にどの言語も語彙力が低いのだ。
残念ながら、主人公を取り巻く全ての人が、
単語を使って会話をしていて、捲し立てるようなシーンは
殆どない。
主人公が理解できない言葉は主人公には浴びせられない。
どの言語が得意ということも特になさそうなので、
それが、恐らく辛いだろうなと思う。
短文での意思疎通は、よく考えると寂しいかもしれない。
ポツポツとした会話。
そこに純粋さを一瞬感じるが、そこに永遠性はないようにも思う。
自然なようで、設定全てが異様なのかもしれない。
個人的に、言葉をすごく大切なものだと考えている。
だが、
この映画からは
「たかが言葉。」
というニュアンスを受け取る。
言葉は道路の交通標識のようなもので、
最低限の意思疎通だけ出来て事故らなければいい。
それ以外の思考は、自分の内面で完結する。
解り合っているように見える主人公たちだが、
実際は何処まで言語を使って、もしくは使わずに解り合っているのだろうか。
そんな不思議な感覚を味わった。
個人主義者の集団だから、それでいいのかもしれない。

【父親の対応】
「出会えたことは羨ましい。それはお前が善良だったからだよ。」
"Becase of you are good. "
「一生に与えられた心と体は一つだけだ。
それを30過ぎまで抑えつけて殆どの人は過ごす。
30過ぎたら心は見えぬが老いる。体は誰も見向きもしない。
それはあまりにも惜しい。」
心の痛み、喜び、悲しみ、全てが財産。
「多くの親は早く終われば良いと望むだろうが、私たちはそういうタイプの親ではない。」
という所が毅然としていて素晴らしいと思った。
歳をとると、その種類の関係性は得られなくなるという
一貫したテーマは、『スタンドバイミー』のラストにも似ている。

親子でフランス語が出来るだけあって、
核心を避ける会話方法に終始するので、
どう理解するかは観客に委ねられてしまっている。

【親子関係】
主人公の両親は結構変わり者で、
息子の恋を楽しそうにただ眺め続ける。
それでいいのだろうか。
「funny witch」(変な女)
が主人公が母親への評価だ。
平穏な日常を送っているようで、
水面下では色々とそれぞれが思うことがあるようで。
よくよく考えると、色々とおかしいようにも思う。

【自己の世界への没入】
最後は北イタリアの雪景色。
着飾った主人公が、暖炉の薪が燃える音を聞きながら、
ぼうっとしている。
主人公は常に自分の世界に没頭する癖があり、
その癖がこの物語を軽やかにコミカルにしている。
そして上質にもしている。
人間ありきの映画なのだ。
監督ありきとはあまり思わない。
暖炉の薪の前で、パチパチと弾ける薪が燃える音。
この上ない落ち着く素晴らしい時間じゃないだろうか。
この映画は夏といい、冬といい、最高の時間を切り取って配してくれる。
心意気なのだ。

【感情描写の自然さ】
主役は、悲しい時は、嬉しい時、いざとなると
その逆の表情をする癖があるようだ。
それがまた、味わいになるのだから凄い。
複雑な単語や言い方になる場合は、
珍しい満面の笑顔でコミュニケーションを回避する。
事故を避けているようにも見えてきた。
言語とは何なのだろうか。
この主人公に関しては、ジェスチャーや顔の表情の方が多弁だ。
情報交換?事故回避?コミュニケーション?
言語に全てを頼って生きることしか知らないと、
この言語はただのツールという感覚が、一瞬すごく見えて、
実態不便そうにも見えた。
日々、毎日毎日言語的な限界にぶち当たりながら生きるってどんな気分なんだろう。

【ファッション】
主役のファッションが可愛いと思った。
黄色いリュック。
ナイロンの程よく派手目な登山風のオーバーサイズのジャンパー。
紺色のダボダボっとしたセーター。
冬の白いシャツ。
このリュックは、畳まれて一番始めに自転車に乗るシーンで自転車に備え付けられている。

【小道具】
illyのコーヒーの空き缶が並ぶ、自転車修理場の様子。
水色のビックのボールペンが転がっている。
ベスパが少し映る。
フィアットのエンジン音の軽さ。
そういった、細かな面白みを拾うのは楽しい。

【音楽】
主人公が悩み始めると流れる、
ギターのきれいな曲が2曲あったのだが、
どちらも素晴らしい。
暖炉シーンの「ミステリー・オブ・ラブ」スフィアン・スティヴンスが特によかった。
坂本龍一のピリピリとしたピアノよりも、
アイドル風の曲の方が私にはよく感じられた。
非常にサントラの価値が高いと思う。

【映画チラシがまたキレイ】
2018年4月27日公開で、早めに行ったのですが、
頂けたチラシがきれいでした。
粗めの用紙で、広げると4倍にまでなり、
ちょっとしたポスターのようになります。
紙質の粗雑さなんかにまでこだわるあたり、
この映画にも共通する気配り気の利き方が出ています。

【言語の伝承と核家族】
映画の中の家族は、核家族ですが、
それ故に言語は道路交通標識レベルの記号に過ぎないのかもしれない。
言語の深みや文化的な伝承は、知的レベルが高いということとは全く関係ない。
学校では習えず、生活上で沁み込ませるしかないのだ。
核家族化すると、方言自体が消滅するそうです。
情報伝達系の言語による意思疎通は両親とはする。
しかし切羽詰まった言語の行き来では、
方言や言葉の面白みなどの味わいは伝承しないそうです。
道路標識から、学ぶべき味わいはほぼ無いだろう。
三世帯家族など、祖父母との会話は、切羽詰まった内容でない為、
その時々の空気感や方言、ニュアンスが沁み込むそうです。
落ち着いた雰囲気でしか、頭脳的な味わいは残らないのだと思います。
右脳(理論)を使うか、左脳(感情)を使うか。
前頭葉(意思)を使うか、海馬(感覚情報保存)を使うか、尾状核(知的情報保存)を使うか。
一度にどれか一つしか出来ないのが人間なのかもしれない。
効率重視でいくか、時間をたっぷりかけるか。
ただやるか、楽しむか。
じっくり観察しながら会話するには、それ相応の時間が必要ということだろう。
感受性を使いながら生きるには、時間が必要。
自己の内面を使って会話するか、しないかとも言える。
内省的にするかしないか。
学校で習える文化と、習えない文化の二種類がある。
「馴染む」ことは、結構貴重なことではないかと思う。

もちろん、街中で見知らぬ同業者とすれ違う時、
同業者だろうなと思うような、沁みつき方も別途ある。
頭脳ではなく、生活自体がにおいがとなって体に染み付く場合だ。

 

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