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映画やめますか?それとも人間やめますか?
2016/10/20 20:13
by
くりふ
あの拉致ん坊将軍が、韓国の実力派?監督を誘拐し自国の映画を作らせていた…という事件を追ったドキュメンタリー。ほんとうにあった『ミザリー』国家規模版。まさにホラーです。かの国の当事者には取材できないから、映画としては偏った視点にならざるを得ないですが、それがより、ホラー度を増しておりますね。
将軍様が映画マニアとは知られた話ですが、高じて映画製作に関する著書も出版するようになり、するとその著書が聖書となってしまい、自国の映画は皆、聖書通りに作られ同じものばかりになったとか。独裁国家のジレンマですな。でもそこでスグ、「じゃ、隣から才能拉致して来い」となったのでしょうね。その速攻ぶりが目に浮かびます。
拉致られた申相玉監督にとっては、映画作家としては、夢のような環境ではあったのでしょうね。制作費は使い放題で、好き勝手させてくれたそうなので。自国では自社経営うまくいかず借金もあったというのに。申監督はすでに他界され残念ですが、ぜひ現在の本音を聞いてみたかった。誠実な人物であるほど、二重人格を演じるような苦しみがあったのではと。帰っても仕事はままならない。いれば好きなだけ創作できるが心は奴隷。まさしく、映画やめるか人間やめるか? と問われるような毎日だったんじゃなかろうか。…現実逃避し、ひたすら映画にトリップしていた可能性もあるだろうけど(笑)。
それでも脱北できた時のため、証拠として…亡命という嫌疑もかけられていたそうなので…「同録」をしていたというのがスゴイ。元奥さんも一緒だったからできたのでしょうが、これ決死ですよね。将軍様との会談などを密かに録っていた。その一部が本作で聞けますが、めっちゃお宝度高いぞ将軍様の生声(笑)。印象的なのは、映画への想いを口にするも、同じ口から隣国への憎しみが漏れるところ。監督拉致は、復讐心からでもあったことが透けています。
しかし将軍様も人の子、やがて死を迎えるわけで。その壮大な葬儀の様子も映されますが、弔問に列をなす人民たちの、凄まじき号泣ストーム…そう演技しないと懲罰の対象になるから…をみていると、現実でこれだけの人間騙せたのに、なーんであそこまで映画の嘘を欲しがったのだろう?と不思議な気持ちにもなるのでした。
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