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夏のクラクション

100点 2017/2/27 20:55 by 出木杉のびた

ラ・ラ・ランド

全編に亘り映画愛溢れる作品で、過去作に対するリスペクトが半端ない。32歳の若きデイミアン・チャゼル監督が、どれだけ映画を観込んでいたのか計り知れない。その演出力は前作『セッション』で証明済みだが、本作では同じく音楽をモチーフに、ミュージカルという味付けで、更に観客を楽しませようとする意気込みが伝わってくる。往年のハリウッド・ミュージカルだけでなく、『ロシュフォールの恋人たち』の音楽やダンス・シーンを盛り込み、『シェルブールの雨傘』を思わせるような切なさも秘められたいいとこどりで、これまた傑作である。

渋滞の道路から始まるダンス・シークエンス。音楽映画はやはり楽曲が命だが、そのメロディは素晴らしく聴き入らずにはいられない。踊りの輪が広がり楽しいミュージカルが始まる。色とりどりの衣装のダンサーたちを捉える、ワンカットのカメラ・ワークもお見事。強いて不満を述べるなら、車の色ももう少しカラフルにして欲しかったところ。

マジックアワーでの撮影が多く、全体的にやや薄暗いイメージもあるが、それは物語全体を俯瞰して見るならば、そのトーンは相応しかったことに思い当たる。これは夢のような楽しいミュージカルではあるものの、ビターで切ないラブ&サクセス・ストーリーなのだ。

ミア役のエマ・ストーンが最高に魅力的だ。青、赤、黄、緑と、時と場所が替わる度に原色の衣装に次々と着替え、そのどれもが美しく映える。彼女の表情の表現力が実に豊かで、分かり易く感情移入がし易い。女優を目指すミアのオーディション・シーンでは、ほとんどがエマの正面からのバスト・ショットの一人芝居。彼女の大きな目から、セリフ以上に雄弁に感情が伝わってくる。演技を邪魔された時の芝居の、戸惑い感も半端ない。見事と唸らされることしばし。彼女の衣装は終盤黒とシックになる。そしてあり得たかも知れない、もう一つの可能性での白との対比が鮮やか。

この終盤の脚本・演出力には脱帽。一体どういうことなのか、観客は希望と不安の入り混じった複雑な心境で最後まで心落ち着かない。このザワザワ感が、観ていて堪らなかった。途中、『カサブランカ』の話が出てくる。終盤セバスチャン(ライアン・ゴズリング)はきっと、ボギーのあの名セリフを言いたい気持ちだったことだろう。彼の弾く、ピアノのメロディがまた甘く切なく胸に響く。

冬から冬までの物語。二人の出逢いは最悪で、渋滞時のイライラから、セバスチャンは煩くクラクションを鳴らす。デートのお迎えもまた、近所迷惑なクラクション。迷惑が喜びに替わるのが、恋の魔法。しかし、夢からは目覚め、いつしか魔法も効かなくなるのが現実。二人にはそれぞれ夢がある。何かを得るためには、何かを失わなければならないのか。辛い決断はあっさりと省いてしまう時間の経緯かが潔い。そこに何があったのかは、観客に委ねられるが、大体想像はつく。

女優志願のミアの部屋の、イングリッド・バーグマン。建物に描かれた映画俳優たちの壁画。『理由なき反抗』のグリフィス天文台。映画館でフィルムが燃えてしまうトラブル…。映画ファンの心をくすぐる数々のメッセージに、懐かしさも相俟って切ない気持ちが増幅されて遣る瀬ない。ミュージカル映画とすれば、その楽曲やシーンは確かに少ない。その分、ドラマが重視されている。映画をたくさん観ている人ほど、心に触れるものが多いのは確か。そういった意味では、映画ファンのための映画。一般観客に、どれほどその思いが伝わるかだけが、心配である。

 

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  • Re: 夏のクラクション

    2017/2/27 23:08 by みかずき

    こんばんは。のびたさん。
    みかずきです。

    ミュージカルって、あまり観ないのですが、
    前評判が良かったので鑑賞しました。
    ファンタージーとリアリティを巧みに融合した力感あふれる、元気を貰える作品でした。
    パンチの効いた音楽、躍動感溢れるダンスも良かったです。夢を掴み取るということは、もう一つの夢を諦めることという切ない展開で大人の映画という感じがしました。
    アカデミー賞大本命とうのも頷ける作品でした。

    そして、今日は、アカデミー賞発表日。
    あんなことってあるんですね。
    作品賞の誤発表には驚きました。

    本作は主演女優賞、作品賞、監督賞は固いと思っていましたが、作品賞はムーンライトでした。
    アメリカ映画の層の厚さを実感しました。

    無性にムーンライトが観たくなりました。

    失礼しました。

  • Re: 夏のクラクション

    2017/2/28 6:19 by 出木杉のびた

    みかずきさん、おはようございます。

    誤発表には唖然でしたね。もう誰もがアカデミー作品賞は確実と見ていただけに、ショックも倍増です。トランプが大統領になったことを思わせるような大番狂わせ。しかし、やはり『ムーンライト』の期待値が上がります。

    僕はミュージカル映画は楽しくて大好きなので、久々に劇場で観られることが嬉しくて堪りませんでした。しかし、ドラマ重視で、それもまた良かったかも知れません。終盤はビターでありましたが、その見せ方の演出力は、正に監督賞受賞に相応しい力量だと思いました。

満足度データ

ラ・ラ・ランド
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採点者数
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レビュー者数
151
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82
レビュー者満足度平均
84
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