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少女喪失

80点 2017/9/14 11:47 by くりふ

さよなら、アドルフ

劇場公開時にみていたが、モヤモヤを巧くコトバ化できず未投稿でした。先日『少女ファニーと運命の旅』をみた後、好対照をなす本作を思い出し数年ぶりレンタルにて再見。今回はずっと入り易くて、高シンクロ率。ナチスの蛮行糾弾が主軸ではなく、1人の少女が敗戦に追われてどう歪み、何を失うか、についての物語でしたね。

感覚的な映像で覆われ、監督の作家性がよく出ています。それが映画の豊かさではあるものの、おかげで曖昧さに転んでいるところもある。また、この題材でこの方法論が必要か?との疑問もおぼえ、初見時はモヤモヤしたのでした。ナチス映画はこう作られるべきだ、という思い込みが残っていたのかもしれません。

邦題は大仰ですが、原題は『ローレ』でヒロイン少女の名前。そのタイトルを使った絶妙な着地を含め今回は、ローレ独り変容の物語なのだとすんなり、共振できました。色々語りたい映画となりましたが…少しだけ書きます(笑)。

女性監督らしく、女を生々しく撮り刻むところが面白い。男が撮ると美しくそそる様に描きがちなところを、容赦がない。導入部で感心するのは、原作で早々に退場するローレママの崩れ方を裸体含め執拗に描くこと。母親の身体を鏡として、その娘ローレにどんな危機が迫っているのか体感できるつくりにしているんですね。

原作よりローレの年齢を上げ14歳設定としてあるが、演じるサスキアちゃんは当時19歳。歪な性描写もあるための配慮でしょうが、敗戦直後の異様な逃避行を通じ、ローレは心と身体のバランスを崩し乖離させてしまう…ことをより重んじたキャスティングなのかと。端的にいえば、繊細な少女期を失った身体という表象。気づけば大人の女へとからだばかりが近づいている。終着点で「大きくなったわねえ」とホメられるが、何と皮肉に響くことか。

この女性監督はオーストラリアの人なのですね。映像感覚から真っ先に、初期のジェーン・カンピオンを連想したのですが、同国出身という出自は無関係ではないと思う。歪さが個性でもあるカンピオン少女と違い、外部からそう仕立てられてしまうのが、本作ローレのより痛々しいところでしたが。

私は映画における水の表現が好きなのですが、本作でのそれには、ものを清める一方、闇に引きずり込む怖さも備える奈落感がありました。実際、壊れかかったローレが、ね…。どろりと粘液のようにも映る水。この時代この感覚、ローレを取り巻く水として説得力がありました。…ふと、名前からローレライ伝説も思い出したりして。

あと、象徴的に扱われる小鹿の置物については書いておきたい。見たとおりに受け取れるようにはなっていますが、これを只の小鹿ではなく“バンビ”と捉えると興味深いです。

ディズニーのアニメ版がよく知られていますが、小鹿の「バンビ」は元々、1923年にオーストリアに住むユダヤ人作家、フェリックス・ザルデンが書き人気を博した小説でした。が、1936年にナチスによって、発禁処分にされたそうです。作者がユダヤ人であることや、小鹿とハンターの関係がユダヤ人とナチスだと解釈された…等が理由らしい。

終戦時、ドイツでは表向き「バンビ」は存在せず、当然、バンビの置物、も存在しません。が、ローレママが若い頃…ローレと同い年の頃…「バンビ」が大好きだった、としたらどうでしょう。まだナチスは生まれておらず、母親と平和に暮らしていた頃の思い出として、“心はバンビ”である、あの置物を残しておいたのだとしたら?

…するとローレが最後に、あの小鹿に対して行なったことは?

作者の真意はわかりませんが、私はこの解釈…より壮絶だと思いますが、こちらの方が本作の結びとして相応しいと思いました。

しかし、ローレはこの歪な旅を通して、強さも身に付けました。あの最後の行為は“Noと言える女”になった、とも言えるのだから。絶望で終わるエンディングではなく、不思議な爽快感も受け取りましたね。

…その他色々ありますが、長くなったのでこの辺で。

 

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  • Re: 少女喪失

    2017/9/15 22:11 by 10年目のソフィ

    こんばんは。
    オススメをいただき、良い映画に巡り会えました。
    ファニーと同じく、彼女の目線中心で他のところで起こったことを徹底的に省き、彼女と完全に同期しました。
    ラストは悲しみとともに、強くなった彼女を感じます。
    バンビ、、、いつもながら深い話をありがとうございます。
    ではでは。

  • こっちでも、大人はわかりあってくれない

    2017/9/17 1:37 by くりふ

    本作、うまくソフィ心にヒットしたようでホッとしました。

    『ファニー〜』のスレで、おススメということではないのですが…と書きましたが、どっちか言うと、情報共有のようなつもりでした。私は一本の映画をみた後、興味が湧くと関連作品も追ってみるのですが、ファニー後真っ先に思い出したのがコレでした。そんなわけで、もし未見なら、と思った次第です。

    おススメって難しいんですよね。自分がいいと思ったら何も考えず、イケイケで推す人も居ますが、私はよほど知った相手でないとそれ、できません。本サイトの中でも、私の受け取り方は特殊な方らしいし(笑)。

    まあ、よろしければまた何か、紹介させて頂きます。

    本作、ホント『ファニー〜』とは好対照ですよね。登場するイケメン君も、ヒロインとの関わりが真逆のようでした。

    こちらも原作を読んでいたのですが、そちらはずっとソフトです。ラストの余韻も、映画のローレと違い消え入りそうな儚さがある。私の貧しい読書歴から照らすと、やはり近似題材、ナチスの女を描く『愛を読むひと』の原作「朗読者」にちょっと近い後味でした。

    先日、期待値最安値で『ダンケルク』をみてきましたが、ノーラン史上最高につまらなかった(笑)。戦争に対する作家性の投入が、本作の方がずっと適切で、惹かれます。やはり、自分に面白い映画は、監督の知名度や制作費に依るものじゃないと実感。だからシネコンだけ行っていると、よい作品を見落としてしまう。要注意であります。

    ではまた。

満足度データ

さよなら、アドルフ
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採点者数
32人
レビュー者数
14
満足度平均
74
レビュー者満足度平均
77
ファン
4人
観たい人
35人

 

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