絶望。
2010/12/2 0:36
by
黄金のキツネ
ノンフィクションを一冊読んだ。
なお原作は未読。
オスマン帝国時代から1990年代までのパレスチナの歴史について、テロリストのアリ・ハッサン・サラメ(黒い九月の首謀者)父子を軸にした内容で、パレスチナ人同士の血で血を洗う内部闘争やパレスチナ対ユダヤの抗争も描かれており、年表などでは到底うかがい知ることのできない生々しい憎悪と殺戮の歴史に触れることができた。
憎悪は、個人、組織、国家のレベルで復讐・報復の原動力となり、復讐はまた新たな憎悪を再生産していく。国家が国際的な体面を考慮するのは表面だけで、基本的には双方とも無差別な報復・復讐を行っており、子供や妊婦が被害者となっても眉をひそめる者はほんの少数で、殺した人間の頭数や、復讐劇の見事さ、話題性の高さのみが評価され、殺人者はその陣営にとっての「英雄」となり、相手陣営にとっては不倶戴天の敵となっていく。まさに血塗られた暗澹とする歴史だった。
それから二度目の鑑賞をし、いくつかの感想を抱いた。
まずアヴナーの悲劇。
精神の均衡を図るために忌まわしい過去から逃れようとする。しかし忌まわしさを払拭するためには自己の正当性を確認し続けなければならない。そのためには憎悪のが生まれたミュンヘンオリンピックの惨劇まで遡り、その映像を想像の中で反芻しなければならない。しかし原点の憎悪に回帰すれば、己の忌まわしい過去も同時に蘇ってしまい、絶望の無限ループから逃れるすべがない。
次ぎに暗殺劇の最後に示唆される「911」。
確かに世界情勢の上では大きな転換点となった「911」だが、世界の耳目がパレスチナから離れた隙にイスラエルはパレスチナ人を徹底的に疲弊させ枯渇させようとしている。かつてナチスによりゲットーの中に追いやられたユダヤ人たちが、今度はパレスチナ人たちをゲットーに追いたてる側になり果て、それを恥じることもない。また窮鼠とも言うべき立場となり、自爆攻撃の中にしか希望を見い出せないパレスチナ人の絶望。
そして身近にある憎悪についても思った。
たとえば殺人事件の被害者家族は、たいてい犯人が極刑に処されるのを望む。当然だと思う。そしてそのそのニュースに接する者も、事件の悲惨さを知れば知るほど犯人への憎しみが増し死刑を望む。だがそれは中東で生まれ続けている憎悪と本質的に異なるところはあるのだろうか。
日本でこの憎しみが復讐へと至らないのは、法が禁じているためだけなのではないか。国家による難民キャンプや自治区内への攻撃や、組織によるテロ行為が日常的に行われ推奨されている社会であれば、今の日本人が抱く憎悪でも十分に復讐者になりうるだろう。江戸時代の日本人は仇討ちを正当な行為とし、制度上も認められていた。そして仇討ちには助勢もまた認められていた。
だから我々が復讐者とならないのは、単に平和な場所と時代に生まれたという外的要因、つまりは僥倖によるだけのように思う。
ニュースの上ではネット上のトラブルなどで唖然とするほどの短絡さで殺人にいたるケースが現出している。未熟な性格の人や子供に多いように思うが、実際はどうなのだろう。
人が人である以上、感情のひとつである憎悪を抱くのは防ぐことができない。だが憎悪を直接相手に暴力的にぶつけ、結果的にその処理を社会制度の上に丸投げにするのではなく、自らの手で適切に(理想などは求めず実務的に)処理する方法を身につけておく、あるいは教育する必要性がいま求められているのではないだろうか。
アヴナーを中心にすえ、果てしない絶望を描いた映画。
暗く、重い映画で、好きにはなれない。
だが絶望の底をのぞき見たい誘惑に駆られたときには、また観るかもしれない。
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