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監督曰く「トウフ屋だからトウフしか作らない」

80点 2018/1/9 6:08 by 出木杉のびた

小津監督の名言の一つに「トウフ屋だからトウフしか作らない」というのがある。いつも同じような作品ばかり撮ることに対しての回答だ。

さて、戦後第二作。戦争自体は描かない小津監督だが、戦争があったために乗り越えなければならない苦難を背負ってしまった夫婦のお話しを撮った。小津監督自身が失敗作と決めつけ、当時の批評もあまり芳しいものではなかったようだが、1948年のキネマ旬報ベストテンでは第七位。田中絹代は毎日映画コンクールで女優演技賞を受賞している。受け入れられなかったのは、内容や一部の描写が、小津らしくなかったためではなかろうか。今こうして観てみると、確かにらしくないものの、作品としては悪くはないと思う。

急病になってしまった息子の入院費のために、たった一度だけ過ちを侵してしまう時子(田中絹代)。愛する夫・修一(佐野周二)が復員してくる僅か20日前のことだった。何という運命のいたずら。終戦直後のことでもあり、女手ひとつの生活はかなり苦しい。大家夫婦は親切だし、話を聞いてくれる友人・秋子もいつも親身になってくれる。でもみんな貧しいので、甘えてばかりはいられない。大切な命を救うため、この時代に女性ができることは、それしかなかった。誰が彼女を責められよう。鏡に写る時子と、自分自身を見つめる本人との切り返しのカットから、決断をしなければならない苦悩が伝わってきて見事だ。

その夜のできごとは、無人の寝室と、ことの終わった男の話で表現される。男は自分のせいでうまくいかなかったことを告げるので、これは僅かな免罪符となり、更に時子に同情的になる。しかし、夫である修一の気持ちは、そういうわけにはいかない。理屈では許している。しかし、感情がそれを許せない。その場所への行き方や、当日のその男の様子をネチネチ聞き出す修一に、無理矢理答えさせられる田中絹代の演技が、可哀そうになってくるほどに素晴らしい。

修一が現場に向かう途中、そこかしこの空き地にある、金属の空洞の廃棄物が映し出される。それは虚ろな修一の心象風景そのままだ。21歳の房子という女性との対面時、近くの校庭から、子供たちの澄んだ歌声が聞こえてくる演出の妙。房子の心も純粋なのに、こんな商売をやらざるを得ない現状を知る。しかし、房子は赦せても、妻である時子は赦せないという矛盾。

やがて訪れる小津映画にあるまじきシーン。伏線として、空き缶が階段を落ちる。そして、役者本人が落ちたかと思ったが、さすがに吹替えだったようだ。これは、修一が時子を赦すきっかけ、感情を乗り越える為の、ある種の儀式だったのかもしれない。我に返った修一が語りかける言葉と、その画面は感動的である。これほどドラマチックな演出は、小津映画では他に類を見ない。監督自身が失敗作と言ったのは、トウフ屋が焼肉を作ってしまったと感じたからかもしれない。

 

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満足度データ

風の中の牝鷄
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