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砂時計

90点 2012/1/25 23:06 by 出木杉のびた

評価の高いヴィスコンティ作品を、若い頃たくさん観たのだが、何れも寝てしまうという状況であった。僕には格調高いヴィスコンティは不向きなのかと思い、これまで再見もせずに放っておいたのだが、今回ニュー・プリントでの再上映とのことで、再挑戦してみることにした。結果、今度は寝ずにしっかりと鑑賞出来た。歳をとったお蔭であろうか。主人公グスタフ・アシェンバッハ(ダーク・ボガード)の気持ちに、少しだけ近づけた気がした。

昔観た時は、同性愛の映画かと思っていたが、どうもそういう意味合いでもないらしい。これは芸術家による、真の美を追求する物語なのかも知れない。グスタフが出会ってしまった、この世で一番美しいと思える存在が、たまたま美少年というだけで、これが少女であってもグスタフは愛していたのかも知れない。

グスタフが一目惚れしてしまうタジオ役のビョルン・アンドレセンの何と言う美しさ。それは実に繊細で、まるで女性のように見える。これは僕でもおそらく見惚れてしまうだろう。そして見詰め続けてしまうかも知れない。細かい心模様を如実に表現しているダーク・ボガードと共に、このキャスティングだけでもこの作品の成功は決定付けられたことだろう。当然、監督の演出力は必要だが。

グスタフは船に乗って、ヴェニスに療養にやってくる。船を降りる時、白塗りの老人が話しかけてくる。この老人の化粧がどうにも気色悪く、逆に老醜をさらけ出しているようで、見るに耐えない。しかし、この化粧の仕方が後のグスタフの姿と重なろうとは、人生は残酷だ。グスタフは確実にこの姿に嫌悪感を示していたはずだ。そして老人は言う。「あなたの可愛いお方にどうぞよろしく」。これは未来の自分からのメッセージなのか。

映画は唐突に過去を回想するので、慣れるのに少し手間取った。印象的なのは過去の砂時計にまつわる会話だ。砂時計は最初のうちは変化に気付かない。砂時計は人生そのもの。我々は日々「死」を意識しないで生きている。若い頃は特に死に近づいていることなど気にも留めないが、それは確実にやってくる。気がついた時には既に終わっているのだ。砂時計の終盤のスピードの速さは、もう止めようがない。

同じく回想での会話で、「美」について議論されている。美は芸術家には作れない。美は自然発生するものなのだと。タジオの美しい顔の映像にこの会話が被る。タジオの美は、努力して作られたものではないのだ。いかなる芸術家でも自然には敵わない。グスタフは作曲という芸術家として、完璧な美を求めてついに巡り合ってしまったのだ。

タジオのたどだとしく弾く「エリーゼのために」から、グスタフは娼館での体験を思い出す。その娼婦の名前がエスメラルダなのだが、そう言えばグスタフを乗せた船の名前もエスメラルダだった。この一致は偶然ではあるまい。しかし、何を意味するのか。ピアノから顔を覗かせるエスメラルダは、無邪気で可愛らしい。グスタフは何を感じてあの行動をとったのか。ここは解釈がいろいろとできそうだ。

その後の回想では、タジオは死刑の宣告を友人から受けている。この世で老人ほど不純なものはないとまで言う。その直後、タジオのアップのイメージが挿入される。若く美しいタジオと、醜く歳老いていくグスタフ。その美を自分のものにすることは出来ない。この世は求めながらも得られないものばかり。人生とはやはり残酷なものだ。

タジオはグスタフの視線に気付いている。時折、意味ありげに見つめ返す。タジオの真意はどこにあるのか。終盤、海でタジオがとるポーズ。う〜む、悔しいがまだ僕には答えが出せない。タジオは天使か死神か。僕がもっと死に近い年齢になった時、またこの映画を観直してみたいと思う。

 

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  • Re: 砂時計

    2012/1/26 7:20 by IKA

    のびたさん、こんにちは。おはつです。

    > タジオのたどだとしく弾く「エリーゼのために」から、グスタフは娼館での体験を思い出す。その娼婦の名前がエスメラルダなのだが、そう言えばグスタフを乗せた船の名前もエスメラルダだった。この一致は偶然ではあるまい。しかし、何を意味するのか。

    この「エスメラルダ」という名の娼婦は、マンの原作の『ベニスに死す』には登場しませんが、彼の晩年の大作『ファウストゥス博士』においては、主人公の作曲家を「運命の道」に誘う重要な人物として登場します。
    私見では、ヴィスコンティの『ベニスに死す』は、マンの『ベニスに死す』と『ファウストゥス博士』を両方原作として持っていて、ヴィスコンティはこの二つの小説をみごとに咀嚼してみずからの『ベニスに死す』をつくりあげた……と、そう思っております。

    なお、蒸気船「エスメラルダ号」は、マンのどちらの小説にも出てきません。マンの『ベニスに死す』にはアッシェンバッハをヴェニスに運ぶ蒸気船は当然出てくるのですが、船名には言及されていないので、この部分はヴィスコンティの創作というか、けっこう深謀を感じさせる場面ではありますが……

    詳細は、この作品の掲示板の方に書かせていただいておりますので、ご興味がおありでしたらご参照いただければ幸いです。(非登録のときに書いたので、HNはikaとなってます。「アルフレッドは誰?」というタイトルで、かなり長いのですが、エスメラルダにかんしては、まんなかよりちょっと上くらい、odyssさん(当時odysさん)とのお話が終わったあとくらいからはじまります)
    <リンクURL>

  • Re: 砂時計

    2012/1/29 21:59 by 出木杉のびた

    IKAさん、ありがとうございました。
    参考にさせていただきます。

満足度データ

ベニスに死す
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