知的遺産足り得る映画

2002/6/12 2:36 by 最大素数

「アリ」は記号としての名前ではなく、自由人であることの象徴であり、「俺はなりたい自分になるんだ」という意志そのものであります。
だからこそ、彼を「クレイ」としか呼ばない(Mr.という尊称付きであっても、「アリ」を認めない)徴兵は拒否するし(勿論拒否の理由はそれ"だけ"ではありません)、「おまえはカシアス・クレイなんだからクレイとしか呼ばねえよ」と言った対戦者には、リング上でボコボコ殴りながら「What's my name?」と何度も叫んだのです。
閑話休題。この試合、リアルタイムでTVライブを観ており、集音マイクがはっきりと「What's my name?」を拾っていて、どういう意味か分からなかったのですが、いやはや実に30年振りに真相に巡り会えてそれはまた別の感激でした。

アリが「アリ」になることを決心したのは「マルコムX」の考えに共感してのことです。そして、実行したのがS.リストンを降して世界チャンプになってからでした。この映画はそのリストン戦と「マルコムX」の説教場面から始まります。つまり「アリ」誕生から始まるわけでして、アリの"後半生"を描いているのではないのです。
その説教場面。「自由を与えられると思ってここに来た者は帰りなさい。自由は与えられるものでは無く、奪い取るものなのです」という過激な発言をする、この頃のメガネの壮年黒人男性、といえば、もう「マルコムX」でしかあり得ません。アフリカ系アメリカ人なら殆どが直ぐ分かると思いますし、日本人でも、ある年齢層には常識だったりしますが、アメリカ人全体の中でどのくらいの人が知っているかというと、そんなには知名度高くないと思うのですが、テロップ等説明一切無し。
ここで、「あ、マルコムXだ。そうか、こっからなのね」と分かるのと分からないのとではその後の展開とのシンクロ度が随分違うんじゃあないかと思ってしまいました。

アリが「アリ」を世間に認めさせる、即ちアリが「アリ」を勝ち取るには、それなりの「力」が要るわけです。そして、彼にとっての「力」は、世界チャンプが持つ社会的影響「力」だったのです。
リストン戦を制してチャンプになり、アリへの改名を表明し、それなりに、ではあるけれど、一応「アリ」は受け入れられます。
これは、単に、世界チャンプという"特別"な地位での話しではありません。実際行動として、自由を勝ち取る方法・道があるということを示したことに意義があるのです。

とは言え、それは完全な勝利では無く、徴兵という国家への隷属に抗するほどの力は無く、結局チャンプを剥奪されてしまいます。しかし、アリは「アリ」として(つまり「なりたい自分」であり続けるために)闘い続けます。
この闘いの中で、アリは「アリ」としての生き方を確立して行くのですが、そのへんの心情の描写はちと弱いように思いました。が、そこもきちんと描くと多分3時間こえてしまうんだろうなあ。他のシーンで削れそうなところって無さそうですから。

そしてこの映画が単にアリ賛歌に終わってないのは、金銭感覚がルーズで女たらしの部分も押さえていることです。徴兵拒否による裁判闘争の費用が無くなってきたのでなんとか試合を組め、というアリに対してマネジャーがあきれ顔でいいました「金が無いって?お前は一番金持ちのチャンピオンなんだぞ」。アリファンには堪りませんね、嬉しくて。それでこそ「アリ」だぜい。女たらしの方はもっと丁寧、と言うか、ま、3回結婚ってだけで充分か(笑)

最後はキンシャサ(ザイール)でのジョージ・フォアマンとの世界タイトル・マッチ。クライマックスがこの試合であることは重要です。
単なるアリの個人伝記ならば、締メは、一度負けているジョー・フレイジャーへの雪辱戦がふさわしいでしょう。しかし、キンシャサ・・・。
この一戦は、初めての黒人発祥の地アフリカでの、黒人だけの手による、黒人の世界戦だったのです。つまり、このタイトルマッチは、アリがそのアイデンティティを求めたボクシングの世界で、アリが所属する黒人社会が「独立」を勝ち取った証しであったのです。

アリが「ALI」に託した意志を、監督マイケル・マンは『ALI』として実に完璧に表現したと思います。

 



満足度データ

アリ
100点
3人(5%) 
90点
5人(9%) 
80点
6人(11%) 
70点
8人(15%) 
60点
5人(9%) 
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8人(15%) 
40点
8人(15%) 
30点
3人(5%) 
20点
2人(3%) 
10点
3人(5%) 
0点
1人(1%) 
採点者数
52人
レビュー者数
31
満足度平均
57
レビュー者満足度平均
60
ファン
1人
観たい人
10人

 

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