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ラスト 静かで穏やかな狂気 ネタバレ

2006/12/6 23:27 by 黄金のキツネ

ナイロビの蜂

観終わったときにしんみりとした気分になったが、それと同時に「どっか違うよなぁ」とも感じた。ジャスティンの生きかた、そして終焉の迎えかたを、はたして「愛」という言葉で簡単に言い切っていいのだろうかと疑問に思ってしまったのだ。

では、愛っていったいなんだろう。その本質や定義、あるいは分類については、たぶん人さまざまな考えかたがあるのだと思う。しかし自己愛を除けば、愛とは他者を対象としたものであり、コミュニケーションの一様式、ないしはその基盤にある感情に他ならない。

その中でも夫婦愛は、たぶん身体どうしの融合だけではなく、精神的な融合、つまり魂の深いところでの共感と、それに依拠するところの心地よさ、安心感、信頼、相手との一体感、といったところを目指すのだと思う。そしてそれは生きている者どうしの精神の交感によってのみ到達可能な地点のような気がする。共同で作業をしたり、芸術作品に対する感動を共有したり、思いやりを感じたり、あるいは誤解や思い込みをひとつひとつ乗り越えながら、お互いへの認識を徐々に深めていく。そのような過程を経てこそ、夫婦愛は育っていくもののように思う。

つまり本来ならばジャスティンから返ってきた想いを受けてまたテッサが行動し、それを受けたテッサがまた……、という二人の間のさまざまな行為のやり取りの中で、愛は育まれていくものだと思う。

しかし映画では違う。テッサの過去をトレースすることにより、彼女の行為をジャスティンは受け止め、それを彼女からの愛だと解釈する。そこまではいい。それにより彼女への理解は深まる。だがそこでコミュニケーションは停止する。ジャスティンはテッサへ新たな行為を返すことはできないし、その行為の中に相手への愛情を加えることもできない。なぜなら返すべき相手はすでにこの世にはいないからだ。

テッサはすでに帰らぬ人である。過去の中から一方的にジャスティンへ行為を送り続け、かつ彼の反応からは無縁の位置にいる。そのためジャスティンは彼女の想いを受け止め続けねばならない。このような一方的な関係で愛が育つわけがない。

ではいったいジャスティンはなにをしていたのだろうか。おそらく彼はテッサの想いを受け止めて、彼女に対するイメージを美化し続けていただけなのだと思う。そして彼の心の中で大きくなり、ますます美しくなり続けるテッサのイメージに自分を寄り添わせ、その中に埋没していっただけなのだ。つまり彼はテッサと融合したのではない。単に自分と融合したに過ぎない。

したがってこの映画で表現されたものは愛ではない。それは確かにやさしさに溢れ、静かで、そしてどこまでも穏やかなものであった。しかしそれは、妄執、迷妄、あるいは狂気とでも表現すべきものだったように思う。

付)眩暈がするようなカメラの動かしかたは、リズム感あふれる『シティ・オブ・ゴッド』という叙事詩は異なり、静謐な物語である本作には似合わない気がした。しかしところどころで挿入されるアフリカの大地の映像はクリアで非常に素晴らしい。好い絵を作れる監督のひとりだと思う。またレイフ・ファインズの演技も見事だった。しかしサスペンスは通常のレベルであり、モチーフとなったアフリカの社会的背景も、ある程度知っていたためかそれほど心は動かされなかった。点数を付けるなら60点かなぁ。

 



  • Re: 静かで穏やかな狂気 ネタバレ

    2006/12/7 18:10 by taki

    >つまり彼はテッサと融合したのではない。単に自分と融合したに過ぎない。
    >したがってこの映画で表現されたものは愛ではない。

    黄金のキツネさんの投稿を読んで,とても共感しました。
    私は「愛ではない」とまでは思わなかったのですが,ジャスティンもテッサも独りよがりの愛だったように感じました。
    生きている間に,ちゃんとコミュニケーションをとりたいものですね。

  • takiさんへ。 ネタバレ

    2006/12/8 21:33 by 黄金のキツネ

    遅くなりましたが、レスありがとうございます。

    本当に二人とも独りよがりであり、もう少し語らいあっていたらなぁ、と思いました。

    映画でのジャスティンは、平和で穏やかな生活を提供していることが自分の愛情の表現だと信じ、それに満足しています。それ以外にも妻への愛情の表現がたくさんあることに全く気づいていません。平和で鈍感です。でもだからと言って責められるようなものでもありません。テッサはテッサで、ジャスティンから提供される安全を受け入れつつ自分の意思を通します。やさしくはありますが、傲慢です。でも特殊な夫婦ではありません。どこにでもある夫婦の姿だと思います。二人ともまあまあの満足を得ており、案外そのまま年をとっていったのかもしれません。

    でも劇中では生命の危険がありました。そして、あの旅です。ジャスティンにも真の理由が告げられておりません。後になってそれが「夫を生命の危険から守るための妻からの愛」として説明されているだけです。

    それをジャスティンが、「テッサからの愛だ」、と受け止めた時点で、テッサの生前の意思は「愛」として機能したのだと思います。もしジャスティンが、「なんてことをするんだ、俺の外交官としてのキャリアがやばいじゃないか」と受け止めてしまったら、それは愛とはなりません。ただ怒りを引き起こし、テッサは「愚かな妻」とラベリングされるだけです。そうなったら彼女の、「夫の安全を願う愛情あふれる妻」としての姿は、どこにも映し出されません。とてつもない齟齬がそこで生まれ、それはテッサが死んでしまったために、永久に解消されません。

    想いは、相手に届いてこそ、です。相手に届いてこそ価値がある、と言ってもいいでしょうし、相手に届いてこそ愛となる、と言ってもいいのでしょう。


    横着者なので、takiさんの「レビュー掲示板」の文言を借用します。「キャッチボール」……的確な例えですね。

    まっとうな二人であれば、相手に向かってストライクを投げたいと思うでしょう。でも実際はなかなか思い通りにはならないものです。球は思うようには飛んでくれず、思いのほか関係ないほうへ飛んでいってしまいます。そんなときは、「ゴメ〜ン」、「今度はちゃんとやるからね」とか互いに声を掛け合って、キャッチボールを続けます。そうして遊んでいる過程で上達していくもんです。愛の成長もそのようなものだと思います。

    いくら片一方が「これがあなたのためだと思った私の会心のストライクよっ!」と言ってボールを投げても、投げようとした段階ではまだ「思い込み」でしかありません。「あなたのため」と思っている(ところの)わたし自身に対する自己満足に過ぎません。その自己満足を広義の愛だ、と言う人もいるでしょうが、それではコミュニケーションとは成りません。自己満足が、「コミュニケーションとしての愛」に変わるには、相手がそれをストライクだと判定すること、すなわち相手による解釈(=愛としての受容)という過程が不可欠だと思います。



    これからは余談です。フェリーニの傑作『道』と、タルコフスキーの『惑星ソラリス』のネタバレを含みますので、もしご覧になっていないならスルーしてください。


    わたしはテッサの死を知ったジャスティンを観て、フェリーニの傑作『道』のザンパノのことを、そしてラストのジャスティンを見てタルコフスキーの『惑星ソラリス』の主人公クリスのことを思い出しました。

    『道』には救いがあります。しかしこの作品には、後追い自殺による哀しさと、「復讐」、あるいは「因果応報」的な若干のカタルシスはあっても、救いはありません。また『道』のジェルソミーナはほんとうに無垢そのものであり、テッサのような「あなたのために、私は私の理性で判断して、あなたには教えないことにした」、という押しつけがましさは微塵も感じられません。また、『惑星ソラリス』では自分の想いにとらわれてしまったクリスの姿が非常に強烈でしたが、この作品ではそれが愛と混同されかねない描かれ方です。たいへん曖昧な気がします。はっきり言えば掘り下げ方が不十分で、後追い自殺による切なさという情緒のほうへ逃げている姿勢が感じられます。これらの点で本作は両作品とは決定的に異なる印象を抱きました。

    私見に過ぎませんけれど、後世この作品は佳作としての評判はとることができたとしても、先ほどの二つの作品のように傑作としての地位にはつくことができないような気がしています。

  • Re: 静かで穏やかな狂気

    2006/12/14 15:33 by taki

    私は文章を書くのが苦手なので,「キャッチボール」は黄金のキツネさんの投稿を読んで思いついたんです(笑)
    『道』と『惑星ソラリス』は観たことがありませんので,DVDデッキを買った時にはレンタルして見てみたいと思います。

  • 夫婦愛はサイドディッシュ

    2007/5/19 18:38 by 未登録ユーザあどるふ

    エンドロールに、「神に感謝する」という英語が入っていたのに、お気づきになられましたか? ジャスティンの行動は、妻テッサとのプライベートな愛に支えられて、宗教的な意味合い、崇高な意味での「愛」を実践するために行われたものだとわたしは理解しました。
    「お前を殺す」という脅迫と恐怖に負けず、テッサが死を賭して追求しようとしたものを公にすることこそ、自分の天から与えられた使命だと彼は覚悟し行動したのだと思います。(あの状況だとジャスティンの死は免れない)。
    最後の教会のお葬式のシーン、裏切った友人が「聖なる」教会で手紙を公表します。巨大な社会悪に立ち向かったジャスティンとテッサの小さな死が、友人の良心を揺り動かし社会を動かしたのだと思います。「救い」はこれで十分だとわたしは感じました。
    キリスト教、また植民地政策と自国の富が表裏一体にあるイギリスの歴史と政治経済という背景なしには、この映画はけっして理解できません。登場人物のセリフに一つひとつに、イギリス人ならではの、優雅さと残酷さ、政治性の厚みを感じます。

  • Re: 静かで穏やかな狂気 ネタバレ

    2007/5/20 16:22 by 黄金のキツネ

    エンドロールの件、約半年前に一度観たきりですのでよく覚えておりませんが、レスありがとうございました。

    あどるふ様の考えておられる「宗教的・崇高的な愛」という言葉の中身と、私が漠然と感じている「宗教的愛」とは異なっている可能性があります。いちおう私の考えを述べますと、「多くの人の存在をその存在のまま尊重して認め、そして無償で赦すもの」、のような内容です。付随してなんらかの救いがあったり、自己犠牲的行為も含まれるのでしょう。

    さて私はジャスティンの行動はテッサに対する疑問、喪失感という個人的な思いから始まったと思っています。彼女の過去を追いかけていく過程で、社会的な大問題に気づき、アフリカの奥地で武装集団から逃げる際に、自発的に飛行機から降りた子どもの自己犠牲的行動を目の当たりにもします。

    でもそのどこでジャスティンの個人的な思いが宗教的愛へと発展したのかが分かりません。

    強いて言えば、彼の葬儀の際に問題が明らかにされ、その結果としてアフリカの不幸が収まる可能性が示唆され、それに反して彼は死を迎えたということで、殉教者のように見えなくもありませんけれど。

    ただ映画を観ていた最中には、彼の行動の中に多くの人へ向かう限りない優しさ、赦し、存在に対する受容と尊重、無償の奉仕などが芽生え、そして発展していった印象は抱きませんでした。あくまでもジャスティン個人の思いで終始した、それが私の個人的な感想です。

    それとだいぶ記憶が薄らいでいるので質問いたしますが、

    >最後の教会のお葬式のシーン、裏切った友人が「聖なる」教会で手紙を公表します。

    手紙を公表したのはナイロビの裏切った友人だったのですか? 映画をみているときは、イタリアの弁護士(たぶんテッサの親族)かと思ったのですが。

満足度データ

ナイロビの蜂
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採点者数
351人
レビュー者数
84
満足度平均
74
レビュー者満足度平均
77
ファン
27人
観たい人
127人

 

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